ここから本文です

2001/03/30

<随筆>◇天才放浪詩人・金笠◇

 韓国の天才放浪詩人、金笠(サッカ)の本格的な評伝が日本で初めて出版された。

 代表的な詩60数編を収録しており、彼の詩世界に存分に触れることができる。著者は本紙の「ずいひつ」欄でも健筆をふるっている崔碩義氏。金笠研究をライフワークとしているだけに、一読してさすがだという印象を強くした。

 この詩人は日本ではあまり知られていないが、韓国で知らない人はおそらくいない。韓国の有力紙「東亜日報」の10数年前の調査では、韓国人が最も尊敬する人物は世界初の鉄船「亀甲船」で豊臣秀吉軍を撃破した李舜臣将軍だが、最も親愛度が高い人物は「放浪詩人の金笠」だった。この詩人を主人公にした小説も多くがベストセラーになるほど人気がある。

 金笠(1807―63年)は朝鮮朝末期、全国を放浪しながら天才のひらめきに富んだ数多くの詩を残した詩人である。名門でありながら廃された家に生まれ、自らの出自を知って出奔、死ぬまで反骨の生き方を通した。

 彼の詩がいまなお庶民のこころを捕らえ続けているのは、胸のすくような毒舌、笑いを誘う詩句が、ピリッとした風刺詩のおかしみが庶民の心の琴線に触れ、共感するものがあるからだろう。

 月白雪白天地白/山深水深客愁深(月白く雪白く天地ことごとく白い/山深く水深く旅人の愁いもまた深い)。崔氏は彼のことを「李朝末期の夜空を一瞬のうちに光芒を放って通り過ぎた流れ星のように思える」と述べているが、その変幻自在な詩は確かに魅力的だ。

 隣国を知るには文化知ることが大事だという。韓国人の「こころ」を知るのに絶好の詩人だ。(Z)