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2002/09/13

<随筆>◇「W杯」イモチョモ(あれこれ)◇ 韓国ヤクルト 田口亮一共同代表副社長代行

 韓国がアジア初のベスト4まで勝ち進み、日本も初めての16強入りと両国にとって至福の大会であったこの大会のイモチョモは、皆さんもうあらゆるメディアで嫌という程見たり聞いたりされてますね。

 まずは、韓国の英雄となって先日オランダに帰国したヒディング監督が韓国代表チームに就任した時のお話。彼は欧州各国の代表チームからも監督就任の依頼が沢山あったそうですが、欧州の選手達は代表入りを機会に自分を高く売りつけようとする選手ばかりで多少嫌気がさしていたそうです。そんな時韓国からの要請で韓国の代表選手と初めて会ったのですが、その時選手全員の眼が「国の為にやるんだ」という闘志でキラキラ輝いていたそうです。そこで就任を決めたという話で、少し出来すぎの感はありますが分かるような気もします。

 ポルトガル戦で未だ少年のような朴智星選手が絶妙のゴールを決めた後、一直線にヒディング監督のもとに駆け寄り胸に抱き付いた姿は、他のどのチームのどの選手のパフォーマンスより感動を与え、その純粋さを証明したような気がします。

 当初の目的である16強入りを果たした日本選手の皆さんには最大級の賛辞を送りますが、4年後の大会でもうひとつ上を目指すのであれば、やはり韓国選手との差が技術ではなく精神力であったことを念頭に置くべきでしょう。さてその韓国代表チームですがイタリアを敗って8強へ、スペインを敗って4強へと勝ち進んで行く訳ですが、ここでどうしても触れなければならないのは、それにつれて驚異的に膨れ上がっていったサポーター「赤い悪魔」の数と行動でしょう。

 全国の街頭サポーターが700万人とピークに達した時、私の親友の韓国人から「日本でも皆興奮してあそこまでやりましたか?」と質問を受けました。この質問のニュアンスはチト難しいのですが、要するに「いくら日本人でもあそこまで自発的に集まり愛国心を鼓舞できないだろう…どうだ参ったか」ではなくて、「日本人はすぐ群れて行動するというがあそこまで集団ヒステリー症状にはならないだろう…イヤー参った」という自虐的なニュアンスだったのです。

 もちろんこのサポーターの皆さんの90%以上は30代以下の人々で、50代後半の私の親友の感想とは違った受け止め方をした人も多いはずですが、4強入りを果たした記念に公休日を制定するに至っては、「そこまでやるか」と引っくり返った人たちが多く居たことも事実なのです。しかしこのサポーターの姿が日本を始めとして世界で絶賛されたことを見ると、現代は奥ゆかしさなんかよりも自分の感情を素直に表わして見せつける方が勝ちなんだナァとつくづく思いました。

 それにしてもこのW杯共催で韓国の人々が我々日本人に示してくれた態度(応援にしても日本が敗れた時のなぐさめにしても)は、「日本に追いつき追い越せ」の時代を完全に遠い過去のものとした余裕をもった対応でした。韓国の人々の民度がかなり上昇したのに、さて日本のほうはこのままで良いのかナァとちょっと考えさせられ、寂しくなるW杯終了後の印象でした。
                  (本紙2002年7月26日号掲載)


  たぐち・りょういち  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。