ソウルのど真ん中を流れる漢江にアユが復活したという話を以前、このコラムで紹介したことがある。それほど漢江の水質がよくなっているということだが、お陰で漢江の魚影も濃くなった。漢江に棲む魚の種類も増えているという。
漢江での釣りは禁止されていないので釣り人の姿も多い。西日本新聞ソウル支局長で釣りのプロの田代俊一郎記者もその一人。漢江のほとりのマンションに住んでいることから、しょっちゅう漢江に糸を垂れている。
ぼくは魚が好きなため、彼から釣りの話をよく聞く。今週は漢江で体調60センチものカムルチを釣り上げたという話が面白かった。カムルチとは日本では「カムルチー」とか「台湾どじょう」といって外来種になっているようだが、60センチとはすごい。上げるのに30分近くかかったという。
カルムチは産後の肥立ちや病み上がりなどにいいとか。韓国ではメウンタンなどで強壮食としてよく食されているようだ。丸太みたいで、野戦服のような迷彩があってどう猛な感じさえする。しかし田代プロはプロらしく、群がり集まった韓国人たちの「惜しいなあ」の表情を尻目に、いつものようにその60センチを漢江にリリースしたという。
彼はこのほかソガリ(コウライケツギョ)やヌチ(コウライニゴイ)など韓国固有の魚種をはじめ、自宅前の漢江で多くの釣果を上げている。ソガリでは天然記念物になっている黄色い「ファンソガリ」も上げたという(もちろんリリース)。コイ、フナ、スズキ、ナマズ、ボラ、ウナギなどはしょっちゅうとか。
韓国でも近年は釣りブームだ。したがって田代記者にとって自宅前の漢江のほとりを含め、全国に釣を通じた友達がいることになる。なるほどこういう手もあったか。釣をネタに下韓国探訪と民間外交とはなかなかいいアイデアである。
その田代記者が最近、韓国での釣り紀行をまとめた本を日本で出版した。『韓国の釣り』(つり人社)で実に楽しい本だ。写真や図面、イラストも入っており、釣りに行かなくても臨場感が味わえる。文章も釣り人・田代プロの実感そのものが出ていて楽しい。
韓国もワールドカップが終わりやっと静かになった。田代記者が来週あたり釣り紀行でまた地方にお出掛けというので、便乗することになった。春川の湖水での夜のフナ釣りという。ぼくのお目当ては釣りもさることながら、湖水に浮かんだ釣り用のバンガロー(?)である。
ここで寝泊りしながらフナを釣るという。冷蔵庫も備えてあって、食事はボートで出前してくれるのだそうだ。となると花よりダンゴかな。同行者がもう2人いるが、みんな男というのが若干風情を欠くが、フナ釣りは日本でも難しい。それに待ちが長い。ぼくはフナ釣りなど何十年ぶりだろうか。結果がお楽しみである。
(本紙 2002年7月5日号掲載)
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。