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2002/08/16

<随筆>◇珍島物語・その1◇ 新・韓国日商岩井 大西憲一理事

 「海が割れるのよ~、道ができるのよ~」天童よしみのヒット曲「珍島物語」に歌われている神秘の島・珍島の「海割れ」を見てきた。韓国版「モーゼの奇跡」を遂に体験したのだ。

 ソウルから木浦までは1時間の空の旅。木浦からさらに高速バスで1時間。1597年、日本水軍が韓国の英雄・李舜臣将軍率いる亀甲船に撃破されて海の藻屑と消えたと言われる鳴梁水路にかかっている珍島大橋を渡れば、済州島を除けば韓国最南端の島・珍島に到着である。

 因みに金大中大統領の生まれ故郷・荷衣島は珍島のすぐ西にある。

 海割れは夕方5時頃から始まるというので、島の中央部にある宿舎の「太平モーテル」に荷物を解いて直ちに現地の回洞(ヘドン)へ向かった。現場は丁度「霊登祝祭」の真っ只中で、海辺は人と売店で超満員。「霊登祝祭」は毎年4月末から5月にかけての海割れの時期に風の神・霊登神を祭って行われており、今年で25回を数えるという。臨時に作られた大舞台では、珍島の伝統芸能や各種のショーがお祭りムードを盛り上げていた。

 その隣のテントに設けられた観光案内所を覗くと、楚々とした妙齢の日本人女性が観光客に応対しているではないか。この女性こそ、当地では有名な「珍島のケイコさん」こと、瀧口惠子さんでした。

 彼女は珍島に住みついて11年で、珍島郡庁・文化観光課のれっきとした職員。さらに驚いたのは、ケイコさんの他に日本人アジュモニ(ご婦人)が3人もおられるのだ。いずれも妙齢の美人揃いで、海割れを見学に来た日本人観光客の応対に駆り出されたという。

 韓国版「モーゼの奇跡」は今や珍島観光の目玉となっており、昨年この時期の観光客は全部で37万人、日本人も8000人近く来ており、中には老夫婦で毎年訪れる日本人もいるらしい。ソウル駐在7年の小生は初めてというのに。早速、4人の美女にいろいろ聞いて見た。他の3人の方も珍島滞在は5年から11年とかなり長い。

 皆さん、韓国人男性と熱烈な恋愛のすえ結婚、ご主人の故郷である珍島に住んでいるのだ。東京の都会育ちのSさんの島での仕事は農業。さらなる驚きは、珍島には全部で7人の日本人妻がいるという。

 いくら愛するご主人と一緒でも、慣れない外国で、しかも保守的な地方での生活は大変だと思うが、皆さん、とても明るくて島の生活にすっかり溶け込んでいる様子。

 日韓交流が叫ばれて久しいが、小さな南の島で逞しく現地に根を下ろしている日本人女性に、日韓交流の大事な一面を垣間見たような気分がして、甲斐甲斐しく働いている皆さんが美しく輝いて見えた。
                 (本紙2002年6月21日号掲載)


   おおにし・けんいち 1943年福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、昨年7月から新・韓国日商岩井理事。