ここから本文です

2002/06/14

<随筆>◇豊山犬と珍島犬◇ 崔 碩義 氏

 「豊山犬」と「珍島犬]はともに朝鮮半島を代表する名犬である。なかでも豊山犬は韓国の金大中大統領が平壌を訪問したとき、金正日総書記からプレゼントされたことで一躍有名になった犬だ。

 実はそのとき、金大中大統領も珍島犬をみやげに持参したからその返礼の意味もあった。いずれにしても微笑ましい話題で、こうした和気あいあいな交歓によって南北の和解が一挙に加速すればどんなに素晴らしいことかと期待された。

 だが、「南北共同宣言」の中身の方は一向に進展していないのは残念というしかない。

 豊山犬は、咸鏡南道、豊山地方特産の中型もしくは大型犬で、鼻、爪の色が黒く、体全体が白くて厚い毛に覆われ寒さに滅法強いのが特徴。これに目をつけた帝政時代のロシア人が、豊山犬を虎や熊、猪などの猛獣の狩りに珍重したという話が伝えられる。

 豊山犬は恐るべき犬で、零下30度という厳冬期でも飼い主の家を夜を徹して守り、ひとたび敵が襲ってきたら、その喉元に噛みついて、死んでも放さないというから、敵にとってはこれほど厄介なものはなく、味方にとってこれほど頼もしい犬はない。

 一方、珍島犬は全羅南道の南端にある珍島が、そのふるさとだ。珍島といえば、もちろんあの「アリアリラン スリスリラン アラリガナンネ」と歌われる「珍島アリラン」の本場である。日本でも上映された「風の丘を越えて」という映画の中の「珍島アリラン」を歌う場面は、まだに絶品といわれる。

 珍島犬は韓国でもっとも優れた犬として現在天然記念物第53号に指定されて厚く保護されている。品種としては東アジア一帯に広く分布する茶色の中型犬で、日本の柴犬にやや似ているといえよう。

 昔から、珍島犬は飼い主を追いかけて、本土との間に横たわる鳴梁海峡の急流を泳いで渡ったという話まで伝わる。それほど、飼い主に忠実で、帰巣本能に強い犬であることを示している。

 ところで、日本でも最近、巨人軍前監督長島茂雄氏をはじめ、在日同胞の愛犬家の中から珍島犬を飼う人たちが増え、各地で同好会が結成されているという話だ。

 ゲテモノ食いといえば、中華料理に勝るものではない。猿の頭、蛇、犬、みみず、スッポン、オットセイの睾丸にいたるまで、ありとあらゆる生きものを瞬時に料理してしまうのだから恐れ入る。それに比べるとこの国の伝統的な食文化である補身湯(ポシンタン)、狗醤(ケジャン)などは大したものではない。せいぜい夏の暑さを乗り切る食べ物として摂取してきたものだ。

 ワールドカップに際して、世界の犬の愛護団体から一斉に攻撃を受けることが予想される、しかし、そうした外圧に屈指てこの国の食文化を無くすというのもどうかと思う。やはりここは国際敵認知を得るよう努めるべきであろう。
                       (本紙3月22日号掲載)


  チェ・ソギ フリーライター。慶尚南道出身。立命館大学文学部卒。朝鮮近代文学専攻。