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2002/08/23

<随筆>◇血中ナショナリスト濃度◇ ZOO・PLANNING 尹陽子社長

 もうなんだかわからないぐらい、サッカーな日々である。

 日本対ベルギー戦の翌日、声を枯らして電話の声が別人になっている仕事先の人がいた。私も人のことは言えない。韓国対イタリア戦の次の日は喉が痛かった。観戦後、狂喜乱舞して新宿にくり出し、飲みすぎて記憶をなくした。

 もちろん朝から赤いTシャツを着て、オフィスでは「韓国が負けたら六本木に走って行って暴れる」とスタッフに宣言していた。
「ベストエイトだからね、私たちもソウルの市庁前に行かなきゃ」と妹と真剣に韓国に行こうと話し合ったり、韓国のチケット事情を調べたりして忙かった。

 ワールドカップが始まって以来よく話題になるのが、韓国サポーターの熱血ぶりだ。韓国戦の中継を見ていると、よく言えば燃えるような熱意を持ったサポーターともいえるし、悪く言えば暑苦しくてうるさい。韓国内だけでなく、大久保や赤坂でも赤い一団は珍しくなかった。

 やっぱり世界のベスト4まで行けば、そりゃもう、ここは日本だ、なんて冷たいことは言いっこなし。大目に見てもらうしかない。赤い人々がわんさかいるだけでも熱気を感じるのに、ひとりひとりの声が大きい。

 「いやー、韓国人の応援ってすごいですね。試合中のブーイングや声援を聞くとパワフルで驚きますね」と言われたりする。私は心の中で、そう、だから私も暑苦しい人間なんです。と答えている。

 各国の応援振りが中継されるのを見るのも興味深かった。韓国の真っ赤ぶりは世界中で有名になったはずだが、ワールドカップにあれだけの情熱が集中するのを見るのは楽しい。

 その熱中振りはそのまま[血中ナショナリスト濃度]を表しているような気がする。騒げば騒ぐほど国を愛する感情が伝わってくる。

 その熱さはオリンピックより温度が高い。たぶんサッカーという球技に人間そのものを熱くさせるエッセンスが凝縮されているからだと思う。

 今回サッカー観戦をして(テレビのみ)しみじみ感じたことがある。サッカーほどひとりで観るのがつまらないスポーツはない。

 うちで観ていると私のやじに中学3年の娘は「そんなに言うならママが選手になればいいじゃない?!」と怒ってテレビの前からいなくなってしまう。

 夫は興奮する私とは無関係に冷静に観て、夜10時になると結果も待たずに寝てしまう。ひとりで熱くなっている自分がバカみたいだったのに懲りて、韓国戦だけは不良になって外(友人宅やお店)で観ていた。

 同じチームに勝って欲しいと願う人といっしょに観て、大声をあげて応援して、勝ったら抱き合って喜ぶ、こんな単純な楽しみに浸る日々である。
                (本紙2002年6月28日号掲載)


  ユン・ヤンジャ 1958年神奈川県生まれの在日3世。和光大学経済学部卒。女性記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」を設立。