ここから本文です

2003/09/19

<随筆>◇本当に不景気?◇ 新・韓国日商岩井 大西 憲一理事

 久しぶりに取引先に招待されて韓国風二次会を経験した。最近増えているビジネスクラブという所だが、ホテルのビジネスセンターとはかなり違う。焼肉と焼酎で全員かなり出来上がったあと、激しい雨の中を現場に到着したのは夜11時を回っていたが、この雨、この時間にもかかわらず多くの客で賑わっていた。

 ここは決して安くない。建物は王朝風で内装もホテル並みに豪華。我々しがないサラリーマンには滅多に入れない所だ。にもかかわらず、部屋に通された後、かなりの時間待たされた。客が多くて人手が足りないのだ。

 韓国は今、不景気の真っ只中と言われている。国内の自動車販売は前年比30%以上激減し、百貨店の客足も大幅に落ち込んでいる。夜の稼ぎ時でもタクシーの空車がやけに目立つ。にもかかわらず、この高級店の賑わいは何だろう?店内には黒服に身を固めた長身の若者が忙しそうに飲み物を運んでいる。

 店の前にも黒服の若者が数人、携帯電話を片手に客を捌いていた。大学を出たばかりのような若さでカッコイイ。業界独特の目つきが気になるが、皆、国の将来を背負うべき若者だ。彼らは「ピキ」と呼ばれている。日本語の「客引き」から来たらしい。この、若者ピキが最近やけに増えてきた。Pホテル裏の繁華街とか武橋洞界隈に溢れている。昼間からチラシを配っている若者ピキも多い。「いい若者が、会社や工場でもっと生産的な仕事をせんかい」と、酔っ払いオジサンは自分の立場を忘れて思わず息巻いた。

 そう言えば、若者の失業率がやけに高い。平均失業率は3%台だが、20代は8%を超えている。各企業が新規採用を絞っているからだ。特に大学新卒の失業者が多い。高い教育費をかけて漸く一流大学を卒業しても、就職出来るのはほんの一部。それでも余裕のある家庭は大学院、海外留学で時を稼げるが、大半の家庭は大変だ。風俗店でのアルバイト女学生が卒業後もそのまま店に就職という話も稀ではないらしい。クレジットカードなどの信用不良者は6月末で322万人と、最高記録を更新している。自殺も増えている。世は正に不景気なのだ。若者ピキ増加も原因はそこにあるのだ。
 
 「それなのにこの賑わいはどういうことですか?」隣でグラスを傾けている取引先の部長に聞いてみた。「不景気だからこそ、景気づけが必要なんですよ」「それに店で使ったお金で従業員は消費に走り、消費が消費を生み、結局、景気を刺激するんですよ」「日本人は財布の紐をきつく締めているから、不景気から抜けられないでしょう」分かり易い説明である。でも何か納得できない。

 さらに質問しようとした時にアガシたちが入って来た。途端に座が華やいだ。お酒のグラスが飛び交う。カラオケが鳴り響く。ここは不景気とは別世界のようだ。これで本当に景気が良くなれば言うことはないが…。良くなるわけがないか。


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。