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2003/09/26

<随筆>◇パートナーシップ◇ ZOO・PLANNING 尹 陽子代表 

 「マンギョンボンホ92」入港のニュース映像は、私の心にさまざまな思い出を蘇らせる。中学の2年間を新潟の民族学校の寮で過ごした私は、30年前、あの港で北朝鮮の旗を振りながら、先代の万景峰号を出迎えていたのだ。港で迎えるのは自由意志ではなく、朝鮮学校の生徒は全員参加した。

 2~3カ月に一度くらいの頻度だっただろうか。寒い時に港に立っていた覚えがないので、冬は入港しなかったのかもしれない。「首領様の配慮で」何度か船の中で食事をした。食用犬が船内の柱に繋いであって驚いたり、トイレの紙が黒くて固かったのを覚えている。船の中は日本じゃない感じがしてものめずらしかった。

 今でも朝鮮総連の人達は、旗を振って歓迎している。その横では、拉致家族被害者の人たちがいて、警備がものものしい。あれから30年も経ったのに、日本と北朝鮮の関係は、一歩も前進せず、それどころか、悪化の一途を辿っているようだ。

 このところ、韓国、北朝鮮関連の報道を目にするたびにパートナーシップという言葉が条件反射のように頭の中を横切る。手もとの英語の辞書でパートナーシップを引くと、「協力、共同、提携」とある。韓国の大邱市で開催されたユニバーシアード世界大会に不参加表明した北朝鮮は、韓国の呼びかけに対応して美女軍団を引き連れて一日遅れで参加した。

 随行した北朝鮮記者団は大会会場で、北朝鮮の人道支援を呼びかけるドイツ人医師らに殴りかかった。その後の6カ国協議も然り。ニュースを見るたびに南北のパートナーシップはいつになったら実現するのだろう、と気持ちが沈む。ひとつの国が二つに分断されて50年以上経った今、現実問題として双方の歩み寄りなくして、統一などありえない。

 歩み寄りとはすなわち、パートナーシップを築くという明確な意思を持つことに他ならない。考えれば考えるほど、儒教の教えとパートナーシップという概念は、いわば両極にあるような気がする。目上の人を神のように敬い、男女七歳にして席を同じくしないんだから、長い歴史の中で培われた民族のスピリットは、相互共存には向かないのかもしれない。

 しかし、この広い世界に、パートナーシップ向きの民族がどれだけいるのだろうか? パートナーシップの精神は、存在するものではなく努力して作るべきものだと思う。

 それにしても韓国のマスコミも日本のマスコミも、美女軍団が大好きらしい。いっそのこと、南北の会談は美女のみで協議するのはどうか。その発言のひとつひとつがニュースになり、ものわかれになりそうな局面でも素直に耳を傾けることが可能かもしれない。

 世界中からいろんな意味で注目されて、両国間に歩み寄りの精神が生まれる…はずはないが、ふたつに分かれた祖国の不幸な状況をなくすために、強引な突破口がないものかと考える日々である。


  ユン・ヤンジャ  1958年、神奈川県生まれ。在日3世。和光大学経済学部卒。女性誌記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」設立。