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2004/12/17

<随筆>◇頑張るママさん◇ 韓国双日 大西憲一 理事

 夜の事情に詳しい友人によると、最近、韓国の飲み屋事情が相当変わりつつあるらしい。不景気なところへ税金や風俗関係の法改正が重なって、高級店や過激店が衰退気味だと、過激大好き友人はこぼしていた。確かに豪華絢爛さを誇っていたビジネスクラブが、庶民的なレストランに衣替えした店を時々見かけるが、白亜御殿の中での焼肉は異様である。ノレバンクに変身したところもある。

 ノレバンクとは歌の銀行? どうやらカラオケボックスの事らしい。豪華絢爛に代わって最近は穏健、リーズナブルな店が賑わい出した。慢性的経済問題を抱えている小生には朗報でもあるが、プラザホテル裏の繁華街の一角にある「Jカクテルハウス」などは、その代表的な店と言えるだろう。カラオケ全盛の中で、たまにはどこか静かで落ち着いて飲める店はないかな? という小生の期待に応えて、今は亡きある駐在員が案内してくれたのがこの店。1階はカウンター主体のカクテルバーで、2階はゆったりソファー。カラオケが普及する前に韓国で流行った、いわゆるカフェー風で、お客との商談や友人との歓談には格好の空間である。

 話相手の女性陣も、大阪弁丸出しのA嬢、日本語の達人H嬢、色白を誇るL嬢と個性的美人ぞろいだが、浮き沈みの激しい業界で女手一つで10年以上も繁盛している秘訣は何と言ってもママの誠実な人柄に負う所が大きい。年齢不詳だが、いつまでも可愛い少女の雰囲気を漂わせている。まるで商売気がないのも人気の秘密。小柄ながらゴルフの名人でもある。才色兼備の彼女のもう一つの特技は歌。実力はハンパじゃない。かなり以前だが、姉妹店のカラオケに同行した時は脂汗が出た。一度聞いたら忘れられない強烈な味わいがある。

 近くにある姉妹店のカラオケは別のママとの共同経営で、カラオケの激戦地・漢南洞とは違って、いたってノンビリとした家庭的な雰囲気で癒される。ここのママもキップの良い小柄美人。先日、日本からのお客と久しぶりに顔を出したが、隣の席で初老の韓国人紳士二人がカラオケを楽しんでいた。定年退職後の友人同士なのか和やかなムードで微笑ましい。

 ところが帰る頃になって様子が違ってきた。二人が出口で取っ組み合いの喧嘩を始めたのだ。先ほどまでの友好ムードが一変して激しい真剣勝負である。我々も含めて客も従業員もビックリして呆然と見ていたが、ママが素早く二人を分けて、毅然とした口調で叱咤した。

 二人の紳士は母親に叱られた子供のように悄然として帰って行った。鮮やかな手際である。喧嘩の原因はどうせ酒の上での些細なものと思うが、激情家の多い当国では時折見かける光景である。もっとも明日になれば、いや店を出て直ぐにも二人は肩を組んで仲直りしているはずだ。二人が帰った後、ママは何事もなかったのようにいつもの笑顔で客の中に溶け込んでいった。


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。今年4月、韓国双日に社名変更。