ここから本文です

2004/10/08

<随筆>◇日韓のチギルチャイ(気質の違い)◇                                                           韓国ヤクルト 田口亮一 共同代表副社長代行

 今年の夏は本当に暑かったですね。ソウルでも何年ぶりかの酷・猛・爆暑で去年はほとんど使わなかったクーラーが連日フル稼働でした。そして秋夕も近づいて来たこの頃は朝夕めっきり涼しくなり、「あの猛暑とあの熱気は浮世のものだったのか」と思いうつろい、時の流れに身を委ねていたある日のこと、新聞でこんな記事を見つけました。「悲劇に終わった10億の夢…」(韓国経済9月6日)。
 
 この記事のチュルゴリ(あらまし)は釜山の税務署に勤めていた親父さん(57)が奥さんと死に別れ、一人娘(30)と親娘二人でソウルに上京して来て娘さんは大企業に勤めたのですが、激務と昇進試験にも漏れたので去年5月に会社も辞めて希望の無い日々を過ごしておりました。無職の父親と二人っきりの無気力な生活を続けた挙句、この父娘が選択したのは「10億ウォンマンドゥルギ(作りあげる)作戦」。娘さんの退職金5000万ウォンの半分を株式投資へ、後の半分はナ・ナント、ロト福券にブチ込んだのでした。

 しかし株価は上がりもせずロト福券も150万ウォン位の三等が二回当たっただけ。退職金5000万ウォンを全部使い果たした父娘は8月22日自宅で首を吊り父娘心中を計ったのですが、哀れなことに娘さんだけ亡くなり親父さんの方は生き残ったのです。

 さて皆さん、亡くなった娘さんにははなはだ不謹慎だと承知しつつ、この記事を読んで今日のテーマ「日韓気質差異」を考察してみましょう。断っておきますが私が言いたいのはどちらが良いか悪いかではなくオンジェカジナ(あくまで)気質の違いを述べるだけですから誤解のないように願います。

 1、5000万ウォンが手元にあったとしてこれを元手に博打で20倍にしようと親娘で相談、決定するか? 残念ながら(?)日本人にはこの連帯感と良い意味での潔さは有りません。やるとしても3000万は残してとりあえず2000万…でしょう。

 2、一文無しになった時、現在57歳と30歳の父娘が心中するという結論を出し、かつそれを実行に移すか? これもアマ(おそらく)日本人の思考方式には無いでしょう。日本人の場合父または娘が前途を悲観して各々一人で自殺することはあり得ると思いますが父娘心中というのはことほど父娘即ち家族の絆の強さ、激しさをここでも感じます。

 私はこの記事を読んで大変申し訳ないのですが、この父娘の一連の行動をリードしていたのはドーモ娘さんの方じゃなかったかと言う気がしてなりません。良く言えばこの「潔さ」、悪く言えばこのめちゃくちゃともいえる「無鉄砲さ」は日本女性には無い韓国女性の持つ愛すべき特質だと思いますから。

 さて日本の男性の皆さん、ソウルアガシへの決め手は「潔さ」ですぞ。アッそうそうこの親父さんの方は「自殺幇助」の罪で服役中だとか…、蛇足まで・…。  


  たぐち・りょういち  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。