ここから本文です

2004/09/17

<随筆>◇私の海雲台◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 久しぶりに夏の海雲台を楽しんで来た。といっても夏の終わりが早い海雲台は8月末ともなると、自慢のビーチも人影はまばらであった。

 私が83年に始めて釜山を訪れて以来、海雲台は韓国でもっともお気に入りの場所である。当時は韓国一の海水浴場といっても高級ホテルは朝鮮ビーチホテルだけで、他にまあまあのホテルは改築前のパラダイスビーチホテルと年季が入った極東ホテルだけであった。

 それが今では、ハイヤットホテルを始め一流ホテルが海岸沿いに林立しており、老舗の朝鮮ビーチホテルはやや影が薄くなったが、それでも小生は一番気に入っている。何と言っても場所が良い。2㌔近くに渡るビーチの一番端に位置しており、青い海に沿って延々と続く見事な砂浜がホテルから一望できるからである。

 釜山駐在を終えて日本に帰ってからも、夏休みにブラーッと舞い戻って、見晴らしの良い部屋の窓際に寝そべって、眼下に海を見ながら読書と昼寝を楽しんだものだ。もちろん一人旅。ホテルの足元からは冬柏公園に続く岩場が広がっており、ここで釣り糸を垂れた時もあったが、さすがに海水浴場の真横では餌の喰いも悪く、アジュンマが経営する岩場の青空屋台でヘサム(なまこ)とモンゲ(ほや)の活け造りを焼酎で流し込みながら、ゆったりと流れる夏のひと時を楽しんだ。隣に続く砂浜から芋の子を洗うような海水浴客の喧騒が耳に心地よい。

 ところで、今回は久しぶりに見る砂浜がやけに狭く感じた。コンクリートの歩道から水際まで、狭いところは10㍍に満たない。夜は満潮のせいかなと思ったが、朝になっても同じであった。地球温暖化の影響かな? もし本当なら一大事である。気になってホテルのフロントマンに聞いてみたが、「ほんの少し狭くなったかも知れないけど、ケンチャンナヨ」。それ以上の深追いは止めて、夜は旧知の取引先の社長と、かねてから予定していたチョンサポの刺身屋に向かった。海雲台の海岸沿いにも刺身屋は軒を並べているが、ここチョンサポは知る人ぞ知る穴場なのである。

 ホテルからタクシーで10分足らず、海辺には珍しい焼肉の名所「タルマジコゲ(月の見える丘)」を超えて直ぐの所に小さな漁村がひっそりと息づいている。ここにある刺身屋は新鮮さが売り物。というのも商品は目の前の海から採ったばかりの天然モノばかり。値段は少し張るが味は保証付き。取引先の社長が連れて行ってくれた店「水晶ヘッチブ」の水槽には、大物に混じっていろんな小魚がびっしり。じっくり品定めの後、天然モノのピチピチヒラメと黒紫のウニは活け造り、大ぶりのサザエはつぼ焼きで頼んだ。シマダイとアワビも食べたかったが値段を聞いて止めた。

 ウニ、サザエ、アワビなどは店のオカミさんが毎日、素潜りで採るのだと。新鮮なはずだ。特に、二つに割った殻から直接スプーンでほじくって食べるウニは、磯の香ムンムンで絶品。開け放たれた窓からの潮風を頬に受けながら、二人は言葉も惜しんで貪り食った。


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。今年4月、韓国双日に社名変更。