ここから本文です

2004/09/03

<随筆>◇人参は信じられるか◇ 産経新聞 黒田 勝弘 ソウル支局長

 1年ほど前に韓国人の知り合いが突然、何年ぶりかでたずねてきた。韓国では経験上、こういうときはだいたい何か頼みごとだ。覚悟していると、案の定だった。大手企業の幹部だったが、辞めてベンチャーをはじめたものの、知人の連帯保証人になったのが災いし、全財産を無くして失業状態だという。

 そこで今、あるモノのセールスをしているので買ってくれないかという。才気煥発で気のいい人物だ。聞くと130万ウォンとかなり高価だったが、人助けと思ってそのモノを購入した。

 そのモノとは、例の漢方の人参(インサム)を加工しエキスにする装置である。ぼくは韓国との付き合いは長いけれど、この種の漢方系にはとんと関心がなかった。これまで人参関係の各種製品はよくもらったが、自分で試したことはほとんどない。だいたい人にあげるか、忘れていて結局、ゴミ箱へということが多かった。

 この装置はコーヒー沸かしのパーコレーターの大きいヤツといった感じで、上部の容器に水とともに人参を入れ、2日ほど加熱すると下の方にエキスが溜まってできあがりとなる。そこで知ったのだが、高麗人参(あるいは朝鮮人参)でよく聞く高級な「紅参(ホンサム)」というのは、赤い色した人参が別途にあるわけではなく、白い人参を加熱加工してできるもので、そうすれば効能が増大するというのだ。なるほど。

 高いモノを買わされたので、使ってみるかという気になった。装置は事務所の冷蔵庫の上に置いてあり、加熱に際してはかなり臭いが出る。小さな部屋なので部屋中、人参の臭いが漂う。こうしてできた赤黒いエキスを冷蔵庫で冷やし、朝晩、コップ一杯ずつ飲むのだ。冷やしてあるので飲みやすい。

 これを1カ月おきくらいに1年近く飲んだのだ。効果やいかん?

 この3年間、ぼくの健康上の最大課題だった(通風予防の)尿酸値が今年、ついに下がった。目標の「8」を切ったのだ。もちろんこの間、ビールで焼き肉などという尿酸に最悪のメニューは一切避けてきた。食事の量を減らし体重も4キロほど落とした。目標達成はこうした総合的な節制の成果かもしれないが、人参の効果は確実と実感している。

 実はほかの効果も確実にあったのだ。体調が実にいいし、疲れない。ただ血圧が20%ほど上がった。もともと血圧に問題のないぼくには支障のない数字だが、これは人によっては副作用になるかもしれない。

 というわけで以来ぼくは初めて「人参の効果」を信じるにいたった。先年、生まれて初めて鍼(はり)をやってその効果を信じるようになったのだが、こんなことがあってぼくも遅ればせながら韓国の漢方系に関心を持つにいたった。いや、単に歳のせいかな。ともかく、韓国に長くいてその面白さをじわりと感じている。


  くろだ・かつひろ  1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。