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2004/05/28

<随筆>◇韓国修学旅行に思う◇ 山中 進 氏

 ある日のソウル・南大門市場の雑踏の中、日本の女学生達数人が年とったハルモニ(おばちゃん)のリヤカーショップを囲んで、そこに並べられたきれいなノリゲ(飾り物)を指さしながら、英語らしき言葉で一生懸命ハルモニに話していた。

 だが、その言葉が通じている様子はなく、ハルモニは無言でカラフルな幾つかのノリゲを、これかそれかと彼女達に突き出しているだけだ。
 
 そんなところに通りかかった私は、らちがあかないその様子を見て、ついつい通訳をやってしまった。大阪から修学旅行で来たという女学生達は、やがて手にしたノリゲを見せ合いながら、歓声とともに雑踏の中へ溶け込んで行った。

 日本から韓国への修学旅行の始まりは1972年、宮崎と滋賀の高等学校の生徒約140名だった。それは、私が1年程の韓国駐在勤務を終えて帰国して4年後のことで、今年で32年目になる。

 そのころはアジア地域への海外旅行が盛んになり始め、シンガポール観光や香港ショッピングツアーに人気があった。韓国旅行はもっぱら男性の関心を引いていて、再三仕事で訪韓する私は、よく嘲笑の目で見られたものだった。そんな時代に修学旅行で韓国を訪れた彼らは、人伝てに聞いた話による不安感があっただろうが、好奇心と新しい体験への期待も輻輳していたと思う。

 旅行の内容は当初は、当時としてはまだ少なかった姉妹校訪問と名所観光が中心だったようだが、近年は韓国の歴史や日本との関わりをきちんと知る意味から、慶州ナザレ園などの施設訪問や、天安の独立記念館、中には板門店を訪れる学校もある。

 1週間足らずの日程の間で、言葉の違いによるコミニケーションの難しさを越えて、新しい体験に出逢い、韓国への理解、友情の芽生えさえ抱いて帰国することの、何と貴重な大きな成果だろう。そこに韓国修学旅行の目的があろう。

 昨年、2003年はSARSの影響で低迷したが、2002年には中学、高校を合わせて250校、38,000余名が訪韓している事は注目に値する。(韓国観光公社/日本修学旅行協会資料)

 この30余年の歳月には、韓国観光客誘致の基盤作りに精進して来た韓国観光公社の努力も蓄積されており、その成果は、'84年から毎年公社が発刊して来た『韓国修学旅行・感想文 ,写真コンクール入賞作品集』の各ページに学生達の感動が熱く述べられている事で理解できる。
 
 その彼らが、感性の強い若い時代に韓国修学旅行で得た体験、身近な韓国に触れた貴重な経験は、その後の彼らにどのような影響を与え、どのように生かされているのだろう。
 韓国への関心は、今も高いだろうか。彼等はあの時の感動を持って、その後に、再び韓国を訪れただろうか? あの時芽生えた友情は、花咲いただろうか。 その様子をぜひ、
ぜひ知りたい。

 それは、これからの新しい韓国修学旅行の在り方を示唆もするだろう。有意義な体験を通じて、韓国を知るだけでなく、韓国の若い人々との友愛の絆をさらに強めて、共に立派な国際人として育ってほしい。


  やまなか・すすむ  東京生まれ。広告会社勤務時代に大韓航空、韓国観光公社を長年担当。ソウル駐在経験もある。NHKハングルテキスト他にイラストとエッセーも執筆。