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2004/03/26

<随筆>◇美容大国の幸せ◇ 尹 陽子 氏

 先日、韓国に行った。美容雑誌の取材で韓国の美容スポットを4日間で8ヵ所取材して回ったのだ。年に2、3回は食材買出しツアーで、呑気にソウルぶらぶら旅行を続けているが、今回ばかりは勝手が違う。まず、江南地区に泊まったこと。取材のためにソウルのコーディネーターさんと事前に何度か打ち合わせをしていたのだが、取材先は1ヶ所を除いてすべて江南地区なので、限られた時間を有効に使うために江南のホテルを予約するように言われた。ソウルでも日本でも、おしゃれスポットに全然興味がないので、江南を散策することもなく、実に10年ぶりに江南のホテルに泊まった。

 江南初体験&美容スポット初取材は、20年来仲よく付き合った友人のまったく違う人間性を垣間見たような、新鮮な驚きがあった。

 「本当に美容大国なんだなぁ、韓国って」。美人が多いといわれる韓国であるが、江南のエステでは筋金入りの美人を何人も見た。

 天然の美人ではなく、美容にお金を使ってよい素材をさらに磨きこんでいる顧客が何人もいる高級エステ。おしゃれなエステサロンは、そんな美人の生息率が高いのだ。女優やモデルも来ていると女性オーナーは自慢していたが、たまたま受付で会計していた女性のあまりの美しさに「彼女も女優?」と聞くと普通の会社に勤めてる人だという。

 雑誌の撮影のために、お願いした20代の女子学生2名のアルバイトさんたちも普通のレベル以上にかわいくて、思わず美容整形したのか聞いてしまった。ふたりとも20歳になったときに目を二重にしたとこともなげに答える。

 取材先の美容外科クリニックでは、リフティング手術を見学させてもらった。手術を受けた患者さんは60代の女性、順番を待っていたのも同年代の女性だった。韓国女性たちの血中美人濃度の高さは日本人とは比べものにならない。世代を越えるその意識、恐るべし。

 日本で2年間、形成外科の研修医をしながら、美容外科の勉強をしたという院長が経営するそのクリニックは千客万来の活気があった。美容外科クリニックやエステサロンは、血中美人濃度を高める手助けをしているにすぎない。女性たちの「美しくなりたい」という欲望がなければ成立しない業種である。

 日本でもここ数年美容ブームといわれている。そのおかげで私の仕事も増えつつある。しかし,日本の美容ブームは韓国のような気迫がない。一部の美容オタクが引っ張っているに過ぎない。ソフトもハードも揃っているのに、韓国と違うのはパッションのある層が薄いことだと思う。美容にはお金も時間もかかる。韓国人女性の美容エンゲル係数は間違いなく日本人より高いはずだ。

 私は人間が幸せに生きるには「自分の欲望を知って、それに忠実であること」が大切だと考えている。その意味では、韓国女性は,日本人より幸福であるのかもしれない。なぜ、美容なのか、なぜ、きれいになりたいのか、その是非は別にするとしても。


  ユン・ヤンジャ  1958年、神奈川県生まれ。在日3世。和光大学経済学部卒。女性誌記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」設立。