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2005/12/02

<随筆>◇幻(?)のテジクッパ◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 近ごろ韓国ではブタ肉ブームだ。人気は昔から脂身いっぱいの三枚肉「サムギョプサル」だが、最近は五枚肉(?)の「オギョプサル」まで登場し人気を博している。いずれも焼肉系だが「オギョプサル」の場合、いちばん外に皮がついているので、こいつは年寄りにはちと食べずらい。

 そのほかワインに漬けて熟成させたとか、キムチと一?に?板?きにして食べるとか、いろんな工夫で客を集めている。

 ブタ肉ブームの背景としては、牛肉に比べ値段が安いということもあるが、健康ブームも大いに関係している。牛肉に比べブタ肉は食べても太らずしかも体にいいというのだ。先ごろテレビを見ていたら、日本で沖縄の人たちが長寿なのもブタ肉をよく食べるからだといっていた。

 ぼくも近年もっぱらブタ肉だ。牛肉は尿酸によくなく、体にもこたえるためだ。ビールでカルビという風景から遠ざかって久しい。

 「尿酸」といえば痛風を気にしているということだが、ぼくは予防的次元で気をつかっている。「尿酸」によくないのは牛肉のスープや内蔵だ。そのため大好きな「ソルロンタン」も久しくご無沙汰である。同じく牛肉系の「コムタン」「カルビタン」「トガニタン」なども右にならえだ。

 となると当然、ブタ肉のスープものはないのかと思う。どういうわけかこれが韓国では見当たらない。日本でごく一般的な「ブタ汁(豚汁)」的なものが韓国にはないのだ。聞くと「ブタ肉はにおいがするから」という。なるほど。韓国で日本のラーメンが苦戦してきたのも、ブタ肉系のあのスープが口に合わなかったということかな。

 しかし以前から釜山には「テジクッパ」があると聞いていた。韓国版・ブタ汁というのだが、一度味見したいと思いながら長い間果たせないできた。それがこの度、釜山APEC取材のお陰で初めてご対面となった。

 高速鉄道のKTXで往復したため、釜山駅近くの路地裏で見かけた食堂だったが実にうまかった。澄んだスープに薄くスライスした脂身付のブタ肉が入っており、におい消しだろうかコショウと刻んだネギがたっぷり入っていた。塩味は自分でつける。付け合せに白菜キムチのほかニラキムチもあったが、これもブタ肉のクセに対する対応だろうか。

 まずスープをしっかり味わった後、韓国風にご飯を入れて食べた。まったくクセがなく、唐辛子抜きで赤くないのがいい。こんなうまい料理がなぜソウルで見当たらないのか不思議だ。値段も四千五百ウォンで昼飯にぴったりだ。ちなみにお店は「三十年伝統」を誇る「ボンジョン・テジクッパ」(電話051・441・2946)でした。

 ところで釜山駅前に中国風の「上海門」ができていた。上海との姉妹関係だろうか。同じく姉妹関係の福岡との件はどうなったのだろう。龍頭山のふもとあたりに「博多通り」ができると聞いていたが。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。