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2005/09/02

<随筆>◇男と女の話◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 先ごろ日本の女性雑誌にこんな特集記事が出ていた。“F公論”といえば、ちょっとした知的女性向きの雑誌だ。その最近号に「読者ノンフィクション傑作選」と銘打ち「こんなにも幸せを求めているのに」とのタイトルで、読者寄稿文がいくつか載っていた。

 その中に「9歳年下のメル友がいつしか…」「“はじめて”をくれた韓国青年との夢の2夜」(主婦四四歳)という話があった。中身の詳しい紹介は省くが、日本の中年女性がメル友のいる韓国に出かけ、韓国の若い男と楽しい思いをしたという話だ。いわば日本女性の海外不倫モノである。これは相手が韓国男性というのがミソだ。明らかに“ヨン様ブーム”便乗モノだが面白い。

 こんな話を読むと思い出すことがある。もう30年近く前のことだ。韓国で絵の個展を開いた日本のある女流画家の話である。彼女は40代後半で子供と2人暮らしだった。絵画交流を機に韓国が好きになり、ついでにある韓国男性が好きになった。これまた年下の男性で、彼に入れ込んだ彼女は、当時では珍しかったが車までプレゼントしたくらいだ。結婚も期待していたようだ。

 いろんなことがあって結局、彼女は振られてしまう。画家といっても金持ちというわけではない。ソウルで金に困ったのだろうか、あることからボクに借金の無心があり、1000㌦貸してあげたこともある。もちろん戻ってこなかった。その後まもなくして、彼女は日本で自殺してしまった。その原因には中学生の息子の事故死もあったようだが。ボクの手元には彼女からもらった展示会での油絵が1枚残っている。

 また韓国についての著書がある日本女性(主婦)の話で、こういうのも記憶に残っている。韓国への歴史的な贖罪意識もあって韓国に入れ込み、ついては家族を日本に残したまま単身で韓国に留学した。しかしその留学生活は、まったく望まない男女関係によって無残なものになり、傷心の帰国となった。この一件は思い出すだに気が滅入るが。

 日韓における男と女の話は当然、いろんなことがあったし今後もあるだろう。最近は冒頭で紹介したような楽しくて気楽な話も多いようだ。それはそれで日韓の間が普通の関係になりつつあることかもしれない。とくに日本人の間では昔は韓国というと「女」が話題だったが、今や「男」が話題なのだから。

 ところで「男と女」にかかわる日韓の収支計算はどういった感じだろうか。「女」についてもどうやら韓国の方がこれまで“優位”だったのではないかと思っている。これはあくまで仮説だが、ボクの周辺で見聞きしてきた範囲でもそれがいえる。これまた詳細は省かざるをえないが、日本の男たちは結構、韓国の女性にしてやられている。

 しかしどこの国でも今や女性が元気だ。「してやられた」などというのも時代遅れかもしれない。ただボクのコリアン・ウォッチングのテーマとしてこの日韓・男と女の“収支”は以前から気になっている。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。