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2005/04/08

<随筆>◇漢江の春が待ち遠しい◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 ソウル近郊には貯水池などたくさんの釣り場がある。冬はガチガチに凍っているが、それでも氷を割って穴をあけ、そこに釣り糸を垂らしてやっているマニアもいる。それがワカサギなどではなくフナやコイだったりするから、韓国ではフナやコイは冬も休ませてくれないからつらいね、と同情したくなる。
 
 こうした貯水池のなかで冬にだけマス釣りをやらせるところがある。貯水池の一面を区切ってそこだけ凍らないようにしているのだ。凍結防止は水を動かせばいいので、簡単な放水装置を使っている。昨年から釣りを始め、ルアーにはまっているぼくとしては絶好のトレーニングになる。この冬、毎週のように足を運んだ。

 出掛けた場所は4カ所で、始興の「タルウォル釣り場」は地下鉄4号線を使い1時間半、龍仁の「シンギ釣り場」は地下鉄2号線と郊外バスで1時間半、平沢・安城の「サンジ釣り場」と「ソンウン釣り場」は京釜線で1時間のところで、いずれも駅からタクシーに乗るとすぐだ。車のないぼくとしてはこうした方法しかないのだが、これは実に便利でタクシーは帰りも電話一本で来てくれる。

 韓国は首都圏をはじめ交通網が大変発達していてしかも安い。マイカーがなくてもまったく問題ないのだ。首都圏のほかにも実は12月末に韓国新幹線のKTXで遠出している。南部はまだ凍っていないというので慶尚南道密陽の密陽江でルアーを投げた。こちらはマスではなくコウライバスが入れ食いだったが、KTX密陽駅から歩いて10分だった。

 ソウル首都圏のマス釣り場は大変面白かった。日本では「管理釣り場」というようだが、養殖マスを放流してあって魚影が濃くよく釣れる。ルアー初心者にはトレーニングとして格好である。韓国人客の多くはウキを付けたフライをやっていたが、こちらはリール釣りでスプーン中心にルアーをとっかえひっかえして反応を楽しんだ。おかげで管理釣り場でのマス釣りの感じはつかめた。

 ところが韓国の貯水池は4月以降はフナやコイ中心でマスのルアーはやらせない。韓国人はじっと座ってアタリを待つフナやコイ釣りが大好きで、立ったままあちこち行ったり来たりしながらルアーを投げては引きというのはあまり人気がない。

 しかしぼくにはルアーの方が運動にもなって実に楽しい。この冬のマス釣りは足腰を鍛えるのにいいトレーニングになったと思う。川釣りがはじまる本格的な春が待ち遠しい。

 ところでソウルでのぼくの釣り場はもっぱら漢江で、自宅からタクシーで5分だ。昨年は12月初めまでやって最後は体長50㌢以上の「カンジュンチ(かわひら)」をゲットしている。

 韓国の桜も今年は開花が遅いとか。国会議事堂裏などヨイド(汝矣島)の漢江沿いの桜が満開になるころが、ぼくにとって漢江での釣りのスタートになりそうだ。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。