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2005/02/11

<随筆>◇クイズの達人◇ 韓国ヤクルト 田口亮一 共同代表副社長代行

 新正月も終わり、相撲の初場所も圧倒的蒙古軍団の勝利の中に幕を閉じ、旧正月までの間、比較的穏やかなソウルの気候に恵まれ、つれづれ考えることは1年と言う月日の流れの早さです。ついこの間ヘーカップ(還暦)を迎えたと思っていたらポルソ(もうすでに)2年が経ってしまいました。

 新年早々苦言を呈したくはありませんが、皆さん一日一日の貴重な時間の中で「今自分は何をすべきか」と云うことを真剣に考えて、より充実した人生を過ごさなければなりません(そういう事をお前にだけは言われたくない、という声多数あり、自分でも少し納得)。

 さて、今日は驚異の高校三年生のお話ですが皆さんも日曜の午前中、KBS2で確か10時からだったと思いますが「クイズの達人」という番組をご覧になった事が有ると思います。私も暇なときには良く見ておりますが、いまだかって、この「クイズの達人」になった人を見たことがなかったのです。

 というのもこのクイズの問題の難易度が普通の難易度じゃないからです。最初6人の出場者から一段階二段階とふるい落とされ、最後に残った二人が対決します。この二段階までの問題も結構難しいのですが、それでもハナ・ツゥル(ひとつやふたつ)は私でもチョンダップ(正解)のこともありますが、二人の対決の問題となるともう手も足もでません。客観的に見てかなり難しい。

 そして勝ち抜いた一人がそれまでに積み重ねた賞金(大体5000万ウオン前後)を獲得せんが為に最後の難問(4問中3問正解で達人資格と賞金獲得)に挑むのです。一月初めのこの番組で最終的に残ったのは、ナント大邱外国語高校3年のメガネ顔の可愛い少年でした。そして最初の2問正解、後一つ正解でタルイン(達人)だァーッ! 緊張が高まり私も手に汗を握り画面を見続けました。そして第三問は惜しくもペケ。最後の四問目、問題は国際機構関係の問題で私メらには何のことやらさっぱり分からん問題でしたが少年は熟考の末に答えました。

 果たして正解かはたまた誤りか…、司会者の絶叫「チョンダップイムニダァ~」ここにこのメガネ少年は「クイズの達人」と賞金5810万ウオンを見事獲得したのです。メデタシメデタシですが、今日のテーマはそこにあるのではありません。クイズの達人になった瞬間、この少年は舞台のカカウンゴセソ(近い所で)ズーッと見ていたオモニにダイビング、抱きついて涙したのです。

 いかに高額の賞金(換率では約580万円ですが、韓国では約一千万円の価値はあるでしょう)を手にしたとは云え、喜びの余り素直に母親に抱きつく純粋な高校三年生の少年の姿を今の日本で見ることが出来ましょうか。

 その後の談話を聞くと、「オモニは僕が幼少の頃から食堂で働いたりヤクルトアジュマ(ヤクルトおばさん)をしたり(これは私の想像)して苦労して僕を育ててくれました。この賞金で少しオモニを楽にさせたい」。何故かアボジはここでも無視され出てきませんでしたが、この少年の行動とお話が、年末の津波大地震の暗いニュースが続く中、一服の清涼剤となり本当にすがすがしい気持ちになりました。

  たぐち・りょういち  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。