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2006/08/25

<随筆>◇竹夫人◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 この夏、遂に待望の恋人をゲットした。寝るときはいつも一緒。軽く抱いても、情熱的に強く抱き締めても従順な彼女はなすがまま。しなやかでバネのきいた体つき。暑くて寝苦しい夜などはひやりとした感触がたまらない。

 冒頭から思わせぶりな話で恐縮だが、誤解を解くためにまずはソウル紹介誌「いろいろソウル」の記事を勝手に引用させていただこう。

 「竹をすべすべにして大きな茶筒の形に編んだ背丈大の竹夫人は、昔の韓国の男たちが必ず揃えた“二番目の妻”。蒸し暑い夏の夜に竹夫人を抱きしめて横になれば風がスーッと通って涼しく安眠できる」そうです。私も二番目の妻こと「竹夫人」を入籍したのです。

 長い梅雨の後、今年のソウルはいつになく蒸し暑い日が続いているが、10年以上前に設置した拙宅のエアコンは主人同様にかなりガタが来ている上に温度設定がないので、スイッチを入れれば冷えすぎ、切れば暑すぎてこのところ不眠症に悩まされていたが、ある人から「竹夫人」の話を聞いて早速、購入した。

 店の主人の話では「竹夫人」は韓国では500年以上にわたって人々に親しまれて来た由緒あるスグレモノで、しかも父親の「竹夫人」は父親専用で息子は使用できず、もし父親が亡くなれば「竹夫人」も運命を共にするという律義者らしい。

 「夫人」だから親子で共有できないというのは分かりやすい。この店には他にも「トゥンサム」といって藤で編んだチョッキ風の上着も売っていた。涼しそうなので欲しかったが、これは韓服の上から着るものらしくてあきらめた。

 ところで最近の報道によれば、中国の重慶地方は猛暑と旱魃で農家は全滅に近いらしい。欧米や米国でも熱中症で死者が多数出た。地球温暖化の影響だろうが、最近のソウルの夏はエアコンなしではとても過ごせない。お陰でエアコンの売れ行きは上々らしいが、その排気でさらに温暖化されるという悪循環が続いている。

 私が初めて韓国に来た頃はエアコンのある家庭は珍しかったが、それでも暑くて眠れないというほどではなかった。窓を開けておけば通り抜ける風で十分に涼しかった。うちわや氷など自然な避暑法で何とか我慢できた。温暖化の影響で動物にも異変が起きている。北極の白熊が激減している。文明の発達が明らかに地球の生態系を狂わしている。

 日本の友人の便りでは、今年は蚊がやけに少なくベープのお世話にならなくてよいとの事。そういえば我が家でもモギ(蚊)があまり見当たらず、明け方まで小さな吸血鬼と格闘することがなくなった。実はゴキブリもほとんど見かけなくなったが、我が家の貴重な同居者も温暖化の犠牲になったのだろうか。

 店の主人に「竹夫人」は竹でできているが怪我など大丈夫か?と尋ねたが、「ご夫人と思って優しく接したら大丈夫」と言いよった。ウーン、自信ないな。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。