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2006/08/04

<随筆>◇韓国の中華料理◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国の中華料理がうまくなった。ホテルの中華料理もそうだが、新しいタイプの本格的な中華料理屋が街に続々、登場しているからだ。たとえばソウル市中心街では、復元なった話題の清渓川に面し武橋洞の入り口にある「孔乙己」や、旧ミドパ百貨店の向かい側の明洞に誕生した「鼎泰豊」などがそうだ。

 前者はピリ辛、激辛の四川料理系で、従業員にチャイナ風の制服を着せ、中国語までしゃべらせ雰囲気を出している。清渓川が見下ろせるという付加価値もあって人気だ。後者は在米の台湾系で、本場風のショウロンポーがウリでいつも列ができている。

 ホテルの中華料理は以前からそれなりの味の店があったが、いずれもバカ高くて不愉快だった。ところが最近、再発見というか、麻浦にあるホテル・ホリデー・イン(旧ガーデン・ホテル)の地下の「王府」が気に入った。価格がまずまずで、コースを頼むと客の好みで料理を選べるのだ。そのオプションがたいそう多様で、一品ずつの注文と変わらない。これはお勧めだ。

 ついでにぼくがよく行く店で、自宅に近い新村ロータリーの現代百貨店10階にある「紅宝石」が悪くない。デパートのミニ食堂街でごく大衆的だがバカにしてはいけない。1品ずつ注文し、意外に味が淡白で、物足りないと自分で味付けする。しかもたいそう安い。店からのながめもいい。

 昼飯は、中心街の鍾閣の大型書店・永豊文庫隣のビルの地下にある「明園」だろう。タンメンなどメン系や、中華ドンブリ風のあんかけメシ系が一品モノのメニューとして実にたくさんある。日本人のランチタイムにはもってこいだ。山東出身の張り切り・ワン社長が陣頭指揮で付加価値を高めている。

 これまでの韓国の中華料理の特徴は、山東系が中心だったためナマコがよく出た。しかし韓国人の注文は実に単純で、どこでもジャジャンミョン、チャンポン、ムルマンドゥ(水餃子)がベストスリーで、一品ではチャプチェ(ハルサメ肉野菜炒め)、タンスユク(あんかけ酢豚)程度か。これでは料理人も張り合いがなかっただろう。
 
 そもそも韓国にはチャイナタウンがないんだから。華僑だって4700万の国にわずか2万人そこらという。これでは中華料理は育たない。それが最近、うまくなりつつあるのはなぜか。中国の経済発展で韓国人が中国文化をまともに評価しだしたせいだろうか。背景をいろいろ考えているところである。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。