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2006/06/30

<随筆>◇老少年 独居記◇ 崔 碩義 氏

 某月某日 快晴にして無風。早朝、新聞を読むことから1日が始まり、そのあと我流のストレッチ体操をする。本日の朝食のメニューは、紅茶と食パン2切れ、それにトマト、オレンジ、バナナ少々。

 読書三昧の独り暮らしも悪くない。それに未だ好奇心旺盛。しかし如何んせん、年のせいか物忘れがだんだんひどくなってきた。交通事故も困るが、認知症にだけはなりたくない。長生きすることを必ずしも強く望むものではないが、私としては、残された人生を真摯に燃焼したい。そして順番がきたら、そっと跡形もなく消え去ればよいと思う。

 午後、久しぶりに友人と囲碁をするために新宿に出向く。碁は忘憂のための趣味で、私のようなヘボ碁でも結構楽しく時間が送れるのだから有難い。何でも昔は呉清原という天才棋士が騒がれたが、今でも韓国の李昌處高が世界チャンピオンに何度もなっているというではないか。

 某月某日 早朝、東の窓から陽光が燦々と差し込んで気分よし。1週間程前に白内障の手術をしたから余計に眩しく感ずるのかも知れない。自転車でスーパーに食料の買い出しに行く途中、公園で欅と銀杏の若葉が一斉に芽吹いているのを見る。それに、花水木の淡桃色の苞葉が楚々として意外に美しい。 

 さて、ここ数日はもっぱら雑書を乱読して時を過ごす。なかでも梶村秀樹の「竹島=独島問題と日本国家」(『著作集第一巻』)という論文に感銘を受けた。梶村秀樹は竹島(独島)は歴史的にいって韓国の領土であることを論証し、とくに1905年の日本の帝国主義的な領土編入は無効だと強調している。最近、日本の世情が右傾化する中で、この梶村論文は高く評価するに値する。

 このごろ、わが家に掛かってくる電話といったら、やれ墓地を買え、保険に入れという類いの電話がやたらに多いので嫌になる。

 某月某日 天候不順、雲居座って肌寒し。朝、全身が刺すように痛い。

 三食据え膳の生活が羨ましくないといえば嘘になるだろう。いつもコレステロールと塩分の取りすぎに気を配り、血圧をコントロールするのにうんざりしている。今日は定期検査のために病院に行く。医師に脚部の痛みを訴えると、何と併「間欠性跛行症」だと診断される。

 今日、たまたま書斎を整理していたら『在日をやめなさい』(池東旭)、『在日は祖国に離別宣言を』(鄭大均)といった煽動的なタイトルの付いた本が出てきた。いいお世話だ!そんなに在日が嫌なら、自分だけさっさと帰化でも何でもしやがれ。

 蓼食う虫も好き好きで、自分の口に合うものを食するのが最高。夕食時に、急に母の手作りの泥鱒汁(チォタン)の絶妙の味を思い出す。そこで、取っておきの赤ワインを1杯ぐいっと腹に流し込む。すると我が顔忽ち紅く染まり、微酔。

 深夜、排尿に立つこと頻り。

 
  チェ・ソギ 在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『黄色い蟹崔碩義作品集』(新幹社刊)などがある。