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2006/03/24

<随筆>◇モチベーション◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 「ヤッター!」「日本、遂に優勝!」。WBC初代チャンピオンは日本の頭上に輝いた。歴史的な快挙である。21日の春分の日は日本全国が歓喜に酔いしれた。韓国に駐在する我々日本人は休日ではなかったが、それでも勤務の合間に垣間見るインターネット(当然ながら韓国の出ない決勝戦はテレビ中継はない)に一喜一憂した。韓国人の取引先、同僚からも祝賀の電話が相次いだ。永遠のライバル・日本の優勝は本当は「歓迎すべからず」のはずだが、今回は韓国の皆さん、やけに余裕のある態度でしたね。それもそのはず、韓国は予選を通して日本には2勝1敗と勝ち越している。その日本が優勝となると、真の実力者は韓国という見方も出来る。まして日本が勝てなかった王者米国にも勝っているのだから。なるほど余裕があるはずだ。日本は浮かれてばかりもいられないのだ。

 確かに準決勝までの韓国チームの勢いは凄かった。「デーハンミングク」韓国の快進撃に沸いたワールドカップの歓喜と興奮が再び韓国全土を包み込んだのは19日の日曜日。全国の主な広場、集会場が「赤鬼」ならず「青鬼」で溢れかえった。サッカーに続いて野球でも韓国は4強に進出、それも野球先進国の米国、中南米、日本とそうそうたる顔ぶれの中での4強にはお世辞抜きで大賛辞を贈りたい。

 子供の頃から「野球狂」を自認してきた小生の戦前の冷静な分析では、優勝は米国で決まり。日本はうまく行って4強もあるが、韓国は一次予選突破が精一杯。サッカーと違って野球はまだまだ実力の差が大きく、メジャーリーグが横綱なら、日本は平幕、韓国は十両くらいの開きがあって勝負にならない、はずであった。それが韓国の大健闘と米国の不甲斐なさで予想は完全に崩れた。

 日本が韓国によもやの2連敗を喫した時はマジに焦った。韓国の友人からは「ミアネヨ(すまんね)」と同情される始末。3戦目の19日はまさに祖国の威信がかかっていた。その日はたまたま日韓合同のゴルフコンペがあったが、敵(?)も味方もあえて野球の話題は避けていたが内心は気もそぞろで成績は散々、ホールアウトするや否やクラブハウスのテレビの前に直行した。幸いに3戦目は日本の勝利に終わって日韓関係の緊張激化は免れた。

 それにしても最近の韓国は強い。トリノオリンピックのメダルラッシュ。女子フィギュアスケートでの新星誕生。米国LPGAでの女子プロ連続優勝。NHKのど自慢全国大会での韓国女性チャンピオン(スポーツではないが)。そして今回のWBC。この強さは一体どこから来るのだろう。ある韓国通曰く「モチベーションが違う」。今回のWBCでも4強進出すれば「兵役免除」の褒美がささやかれていたが、4強が決まった日に韓国政府は正式に「兵役免除」を発表した。隠れた目標を達成して緊張が緩んだのか、次の日本に完敗した。喜びのあまり伝家の宝刀を抜くのが少し早すぎたようだ。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。