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2006/01/13

<随筆>◇韓国人は薄着だ?◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 今年は寒波が早くやってきた。漢江も十二月なかごろに凍ってしまった。雪も結構多く、中国大陸からの寒波が海を越えてやってくる西海岸の全羅南道など、例年になく大雪に見舞われている。この調子だと飛行機で上空から見る韓国の山々も、三月までずっと白く雪におおわれそうだ。

 この寒波で湖や貯水池は当然、早くから凍ってしまった。貯水池での冬のマス釣りが楽しみのぼくも困った。たとえばソウル北方の抱川あたりの貯水池など十一月中ごろから凍ってしまい、マス釣りがやれなくなってしまった。抱川には、ソウル近郊ではもっとも景観がよくしかも広くて水のきれいな「キッピウル(深い泉?)貯水池」というのがあってお気に入りだったのだが、あっという間におしまいだ。

 この貯水池には十月初めに初めてでかけ、四時間ほどで大型のマスを何と二十八尾ゲットするという、ぼくにとっては新記録樹立の釣り場だった。氷が溶けるまでは釣りはダメだという。しかし氷が解けると水温が上がり、韓国では四月以降はマス釣りはほとんどできなくなる。美人薄命(?)―「キッピウル」のマスの季節はことのほか短い。

 それでも貯水池によっては冬でも水面を凍らせず、マスの釣り場にしているところがある。放水や水車で水面を動かし、水を凍らせないのだ。電気代がかかって大変だと思うが入漁料はそのままでありがたい。韓国では釣り場の入漁料は日本と違いいくら長くやっても同じというのがいい。時間でいくらとみみっちい日本に比べると、ここでも韓国は大らか(?)なのだ。

 冬のマス釣り場は、貯水池の一方の水面は真っ白な白い氷原(あるいは雪原)になっていて実に爽快、壮観だ。ガチガチに凍っていて冷気、寒気は相当なのだが、その一方でルアーを投げながらマスを釣るというのはすこぶる気分がいい。

 ところで車窓(バスや列車)からソウル近郊の冬の風景をながめていて、気がついた。韓国の冬の風物詩だった“田んぼのスケート場”がすっかりなくなったのだ。昔はよく子供たちが凍結した田んぼでスケートをしたり手製の板ソリに乗って遊んでいたが、今はまったく見ない。田舎の子供たちも今はそれよりパソコンだという。

 釣りをはじめて韓国は冬も楽しい。それに韓国の冬は暖かくて過ごしよい。ぼくはソウルの都心のワンルーム・マンションに住んでいるが、暖房が効きすぎるほど暖かい。家ではシャツ一枚だし寝る時は毛布一枚だ。韓国は集中暖房のマンション(アパート)生活が一般化しているのでみんなそのようだ。

 韓国人が日本人より意外に薄着なのはそれと関係あるのかな。日本ではエネルギー節約と温暖化防止で「ウォームビズ」とかいって厚着キャンペンーンをやっているが、韓国人にはそんなケチ(?)な考えはないようだ。

 
  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。