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2007/10/26

<随筆>◇ナイスショット◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 「シムガクヘ!(深刻だわ)」私がショットをするたびに、ケディ(キャディーを当地ではこう呼ぶ)が大げさに眉をひそめながら叫ぶ。そして可愛く首をすくめる。

 私のショットが深刻なのは本人が一番良く知っているが、他人から言われると嬉しくない。今日のキャディーは可憐な顔立ちに似合わず表現はストレートでむかつくが、美人だから憎めない。

 彼女が心配するにはわけがある。当地では一定時間内にプレーが終わらないとキャディーの責任となりペナルティーを課せられるケースが多いのだ。初心者クラスが何人か揃うと悲惨なことになる。キャディーは「パリパリ(早く早く)」の連続で、ほとんど走りながらのショット。焦るとよけいショットが乱れるので、「パリパリ」に拍車がかかる。ゴルフかジョギングか分からなくなる。

 息を切らしながら滑り込みセーフでプレーを終えると、ペナルティーを免れたキャディーは「ト、オセヨ(また来て下さい)」と笑顔に戻ってニッコリ。駆け足で疲れきったオジサンはグッタリ。プレー料金がまたバカ高くて、ビジターは約30万ウォン(約3万8000円)もぼったくられてガックリ。それでもゴルフ場の予約が難しく会員でも週末は月1回の予約が精一杯。

 なぜこうなったのか?急増しているゴルフ人口に比べてゴルフ場が少ないからで、あるゴルフ通によれば本年1月現在の韓国のゴルフ場は251カ所で日本の10分の1に過ぎない。会員権相場もうなぎ上りで最近は何と17億ウォン(2億円強)というところも出てきたらしい。これはバブルに違いない。バブルはいつかはじける。「その内、日本みたいな悲劇が起こるぞー」予約に苦労している我々はやっかみ半分に警鐘を鳴らしているのだが…。今のところゴルフブームは衰えの気配が見えない。

 それでも嬉しいこともある。キャディーが皆、20代と若くて美人が多い。80年代に韓国で初めてプレーした時はプロ並みに各プレーヤーに1人ずつキャディーがついた。もっと昔はキャディーの指名制度や19番ホール(?)もあったと取引先の李会長が懐かしがっていた。

 以前、釜山の名門コースでキャディー事件が起こった。前の組がまだパットが終わっていないのに、後続組の飛ばし屋A氏がグリーンに打ち込んでしまい、グリーン上のB氏は動揺したのか短いパットを外してしまった。A氏のキャディーが慌てて謝りに来たが、激怒したB氏は思わず持っていたパターの柄で彼女のお尻にお仕置きのナイスショット。

 「アッポ!(痛い)」今度はゴルフ場側が激怒した。「あまりにも魅力的だったので…」苦しい言い訳も通らない。一時は国際問題にまでなりかかったが、当事者の必死の謝罪で「当分間ゴルフ場締め出しの刑」でどうにか落着した。せめて素手にしておけばよかったのに…。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。