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2007/03/02

<随筆>◇旧正月をこう過ごした◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国で旧正月(ソル)の連休というのは外国人居住者にはいささかさびしい。韓国人にとっては家族、親戚が一堂に会して“情”を確認し合う時だが、外国人はそうはいかないからだ。それに近年は多少、変化があるものの、街ではまともに店はやってないし、旅行も帰省客で混雑するため外出も気がすすまない。しかも以前は街でよく見られたチマ・チョゴリやパジ・トゥルマギなど韓服姿もちかごろは見られず、エキゾティシズムがない。

 “名節”は外国人には意外につまらない季節なのだ。そこで単身赴任の日本人ビジネスマンたちの間では、一時帰国で息抜きしたり、この時期、外国人向けにサービスセールをやっているホテルで過ごす人もいる。

 ところで今年の“ソル”は日曜と重なったため、連休は前後3日だけという短いものだった。そのため外国人たちも“正月気分”はいまいちだったようだ。ただ韓国社会も近年、伝統的な“名節気分”はしだいに後退しつつあって、代わって海外旅行やスキーなどレジャー気分が広がっている。

 今年の筆者は、帰省客の合間をぬって、2日がかりで鉄道を利用し渓流釣りに行ってきた。暖冬で山の氷が解けているとの情報があり、江原道より南に位置する慶尚北道奉化郡の太白山に出かけた。洛東江の最上流の渓流で、韓国マスともいうべき“ヨルモゴ”が狙いだったが、さて現場までどう接近するか。

 まずソウル駅から午後3時過ぎのKTX(高速列車)で大田まで行き、そこから京釜線の在来線(ムグンファ号)に乗り換えて金泉に降り、そこでローカル線の慶北線に乗り換え終点の栄州に着いたのが午後8時ごろ。飛び込みで駅前のミニホテル(1泊2万5千ウォン)にチェックインし、近くの食堂でメシを食って11時には寝た。

 翌朝午前6時過ぎに栄州駅から嶺東線に乗り、目標の渓流に沿った石浦駅には午前8時前に着いた。駅の待合室で着替え、しっかり装備をつけて鉄道沿いの渓流に下り、そこから上流に“釣り上がった”のだった。

 帰りの列車は午後2時57分の切符を買っている。キャストをしながら上流にのぼった後、再び駅まで引き返さなければならない。そこで午後1時まで渓流を遡行した後、今度は渓流沿いの道路を約1時間歩いて引き返し、昼飯に駅前の中華料理屋でジャジャメンを食って列車に乗った。渓流はところどころに残雪、残氷はあったが、日が高くなるにつれ汗ばむ陽気で実に気分のいい“釣行”だった。

 釣果?約5時間の渓流行で、40センチ超の3尾を含め大型を7尾もゲットした。この時期、ヨルモゴは産卵期を前に婚姻色で色付きいっそう美しい。シーズンの最後を飾るビッグな釣果だった。気分がいいはずですねえ。帰路は栄州で中央線に乗り換え、ソウルの清涼里駅に着いたのが午後8時前。もう一つ(?)の韓国を存分に楽しませてもらった実に気分のいい“ソル連休”でした。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長