ここから本文です

2007/02/23

<随筆>◇出版というギャンブル◇ ZOO・PLANNING 尹 陽子 社長

 ソウルに行ったら必ず寄るのが教保文庫、市内で一番大きい書店である。ソウル行きの日程に、一人で書店に行く時間を組み込むとワクワクする。仕事柄どこの国でも書店をのぞいてみたくなるのは職業病かもしれない。

 初めて行ったのは15年ぐらい前だろうか。店内のそこかしこで、座り込んで本を写している学生たちを見てびっくりした。日本なら書店員さんに注意されるか、店の親父にハタキでイヤミ攻撃を受けそうな光景だが、そんな様子もない。今はそんなに見なくなったけど、学生に寛容なのだろうか?本という商品に対する認識が日本と違うのだろうか?いまだにわからないままである。

 私事であるが、去年出版社を立ち上げた。編集プロダクションを16年やってきたので、本を編集するという仕事に変わりがなく、そこに流通や、売り方まで責任を負うことがプラスされるのが出版社であるといったらわかりやすいかもしれない。もっとわかりやすく言うと、他人のふんどしでとっていた相撲を自分のふんどしでとるようになったのだ。

 今、日本の出版業界は9年連続の右肩下がり、出版不況はもはや耳新しい言葉でなくなった。実際に同業者が集まると「あそこはもう危ない」「あの会社はITに買われたらしい」といった話ばかりである。そこに新たに創業したものだから、知り合いから「やめたほうがいいのに…」といまだに言われる。もう遅い、新刊本は2冊出した。来月には3冊目が書店に並ぶ。

 何の勝算もなく、新しく出版社を立ち上げたわけではないし、ベストセラーは書店に並んでいる。本はこの世からなくならない。なくならなきゃいけないのは、業界の悪しき慣習である。今回、各取次会社(本の問屋さんのようなもの)を回ってわかったのは、想像以上に旧態依然とした出版業界のあり方だった。詳しい説明は割愛するが、これでは新しい風が吹かないはずだ。腹が立つことばかりが続いたが、売れる本を作って、実力をつけて変えていかなければいけないことがたくさんあるという使命も芽生えつつある。

 そして、出版はギャンブルだとうすうす感じていたが、それも確信に変わった。新規参入出版社は、あらかじめ負け戦を強いられるシステムが出来上がっていて、苦戦を承知で大手と張り合う。同じ流通に乗せて全国に配本するのに、仕入れ価格が大幅に違う上に、入金時期も約半年間も遅い。これではよっぽどの資本金がないと会社は続けられない。

 ふつうの女性は、不利な争いはしないから、どおりで女性社長が珍しがられるわけだ。自分が女としてマイノリティに属するんだと悟った創業でもあった。


  ユン・ヤンジャ 1958年神奈川県生まれ。在日3世。和光大学経済学部卒。女性誌記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」設立。2006年6月「㈱生活文化出版」設立。「第六感 スピリチュアルパワーの磨き方」を刊行。