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2008/11/28

<随筆>◇韓国語、面白い(チェミインヌン)言い回し◇                                                  韓国ヤクルト共同代表副社長代行 田口 亮一 氏  

 会社の近くには沢山の食堂があります。新沙(シンサ)の四つ角を盤浦(パンポ)側に行くと、この初冬の季節には、生けすに生きたカニをワンサカ入れてある店がたくさんあり、カニチゲなどの鍋料理が盛んに出されます。しかしカニの醍醐味は、私も韓国に来て始めて食べたのだが、カンジャンケジャンに尽きるでしょう。最近は日本の皆さんもしょっちゅう来韓されるので、ケジャンについての説明は省きますが、このケジャンの中でも黄色い味噌がいっぱい入ったカンジャンケジャンは、言葉では言い表せないほどの美味中の美味珍味であります。

 さてある昼食時、「今日はチト食べに行ってみましょうか」ということで会社の人と出かけたのですが、これがうまいことはうまいが結構高いのです。まぁ両手のひらほどの新鮮な生ガニ丸々1匹全部食えるのですからこれは仕方ありません。ところで、私が「本当にうまいナァーこれは・・・」と感嘆したら、一緒に行った韓国の人が即座に「チンチャ、パプトドゥギグナー」と言うのです。一瞬「ムムッ!パプトゥドクとは?」と考えましたが、これは説明を聞かずとも「なるほど、うまいこと言うナァ!」と理解できました。

 皆さんも、もうお分かりでしょう。“パプトゥドク”、つまり飯泥棒(盗人)というわけで、いかにも美味しいという感じが出ておりますよね。日本にも「酒盗」という名詞の食べ物はありますが、言い回しとしては使われておりません。そこで今日は韓国語の日常会話の中で「ムフフッ」と私の感性のみに引っかかった面白い言い回しをご紹介しましょう。

 今年に入って仲間うちのゴルフで賭けをした時に大流行した言葉ですが、(ほとんど私が使うハメになりました)、大負けをした時や連続してやられた時に「ケンチャナヨ。ナヌン、トンパッケ、オムヌンノムニカヨ」(かまわないよ、俺には銭しかない野郎なんだよ)。口惜しまぎれの捨てゼリフで、「だけど俺はこのくらいの金ではビクつかないんだよ」という意気がりも含んでいて、何ともいえず面白い言い方ですね。

 もうひとつは日常生活ではあまり使わないのでしょうが、これから先の忘年会シーズンともなれば、決して嫌いではない皆さんが夜の巷で相手かまわず連発されるであろう表現、「チュイド、セド、モルゲ」です。直訳すればネズミにも鳥にも知られないように、ということですがこの後に続くセリフは、各人上手に作ってください。しかし誰にも分からないようにという表現を地上(ネズミ、それもコソコソ探り回る奴)と、空(鳥、どこにいてもみつかりそう)の動物にわけて比喩するなど、何とも感性豊かな言い回しと思われませんか?


  たぐち・りょういち 1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。