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2008/12/12

<随筆>◇漢南洞(ハンナムドン)◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 景気は悪くても忘年会のシーズン到来である。「今日から12日連続や。体が持たんわ」と満更でもない顔で手帳を見ている輩もいる。飲んベえに不景気は関係ない。

 「次、どこ行こか?」「やっぱり“ハンナムドン”やね」「行こ行こ」。今日も焼肉と焼酎ですっかり出来上がった日本人が、楽しそうに二次会に繰り出す。ハンナムドン(漢南洞)はソウル市内を南北に分けている大河・漢江のすぐ北に位置するが、長年にわたり日本人駐在員や出張者にこよなく愛されている憩いの場で、二次会の代名詞にもなっている。

 「漢江の北なのになぜ漢南洞?」。小生の単純な質問に当社の物知り博士が明確に答えてくれた。「漢江と南山の中間にあるから」。なるほどね。

 余談だが、先日の新聞に日本のオリコンニュースの調査結果として、美女の多い都市としてソウルがパリ、モスクワに次いで3位にランクされていた。本当に3位?という気もしないではないが、確かにソウルの夜の街々は美形で溢れている。その中でハンナムドンが日本人に人気のある秘密は、比較的日本語が通じる店が多いからです。いくら美形でも言葉が通じてこそ楽しさは倍加する。そしてドラマが生まれる。悲喜こもごものドラマはうたかた(泡沫)のように「かつ消えかつ結びて、久しく留まるためしなし」。鴨長明の方丈記ではないが、そこでは数々の人生ドラマが“うたかた”のように繰り返されてきた。

 先日、某クラブのママが引退か、との風の便りを耳にした。その店はハンナムドンきっての老舗で、竹を割ったような性格と人懐っこい笑顔のママが売り物で、確か創業20年近くになるはず。浮き沈みの激しい業界で老舗の初代ママはほとんどがすでに引退したり廃業している中で、彼女は数少ない生え抜きとして頑張っていた。最近はとんとご無沙汰だが、私もママとは旧知の間柄だけに一抹の寂しさを感じながら電話した。

 「まだ引退しないわよ!ちょっと休養しても私はまだまだやるわ!」

 威勢のいい声が返ってきた。この元気なら確かに引退はまだ早い。

 「でも最近は新しい店も多いし、江南の方にも店が増えていて、ちょっと大変」

 そうです。ここ数年、同じような店が発展目覚しい江南(漢江の南)にも次々と誕生して、客の流れも少し変わりつつあるらしい。江南に住む日本人が増えたことも一因だろう。栄華を極めて来たハンナムドンにもピンチ到来か?

 「私はここに愛着があるので離れたくはないんだけど…」と、ちょっと悩んでいる様子。

 「ママはよそに行っては駄目ですよ。ハンナムドンの灯を守るのはアナタですよ」「分かってます」

 最近になって、ママから新装開店の案内状が届いた。場所は…、江南でした。


   おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。