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2008/08/12

<随筆>◇書芸(ソエ)の伝道師(チョンドサ)◇                                                            韓国ヤクルト共同代表副社長代行 田口 亮一 氏

 7月末までは梅雨特有のジメジメした湿気の多い曇空にプラスして、水蒸気にオゾンが混じったかそれこそノストラダムスの黒い雲が空をおおって、本当にうっとうしい天気でした。8月に入るや否やギンギラの太陽が顔を出し、年をとるにつれて暑さに弱くなった私メには、「アジーアジー、もうたまらん」という熱帯夜の連続で、会社に居る時が一番涼しくてヘンボクハダ(幸せだ)というこの頃、久しぶりに最近は太公望と化した黒田先輩から電話を頂きました。

 それはまだずい分先の事なんですが、11月1日から10日までヤクルトギャラリーで日韓台中のBRUSHU-ART(日本語は書道、韓国語は書芸(ソエ)といいますね)の展覧会をやるとのことで、その日本代表兼事務局長の友沢女史を紹介するので協力してやってほしいとのことでした。うちのギャラリーでの事だし、ご協力する事はやぶさかではないと、気持ち良くお引き受けいたしましたが、内心では「今どき書道展なんてチャムコジョンチョギクナァ(古くさいなァ)」と考えておりました。

 そして8月8日午前中に当社を訪問された女史の情熱に燃えた熱弁を拝聴して、「ネガトゥリョックナァ(私の方が間違えていたナァ)」と反省してこの文章を書いているところです。友沢女史の紹介をすると長くなりますので簡単に述べますと、高校時代に書道の奥深さに目覚め、商社勤務をしているうちにもその熱冷めやらず、ついに台湾に書道留学、そこで現在韓国芸術院会員の李寿徳女史の妹さんと恩師を同じくし、それ以来、日韓台中の書道芸術の伝道者としてご活躍中との事でした。今度の展覧会の目的は「古典からの筆跡が現代におけるプッ(筆)の芸術にどんな影響を与え各国の独特な書体にどのような形で現れているか」を模索すると言うキップントゥシ(深い意味)があるのだそうです。

 今や猫も杓子も携帯だ、Eメールだという時代に4カ国のみに発達した「文字を筆で書く」と言う伝達記述の方法を芸術までに高めた人々がおられ、宇宙・ITの時代の今でもその芸術の奥の深さを追求しようとされる人々が日本でも韓国でも中国でも沢山おられるということに、深く感銘いたしました。

 まァ私の姉も含めて「ヨン様」だ「ドン様」だと泣いたり喚いたりしているアジュモニ達とは、眼の色が完全に違いますね。そして何よりも嬉しいことは、今年の春以来ギクシャクしている東アジアの4カ国(含む台湾)が文化芸術の面で一堂に会するということ。対日悪感情なんてカンゲオプソヨ(関係ないね)と云うBRUSHU-ARTの面々の意気込みが、ひしひしと伝わってくるからです。

 この展覧会には出来る限りの協力を惜しまず、絶対に成功するよう努力したいと思っています。次の展覧会は来年東京で開催予定らしいですが、願わくば東アジアのもう一つの王国(?)からも筆の芸術伝道者が多数参加できるような情勢になることを、心から期待しているところです。 


  たぐち・りょういち 1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。