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2008/10/24

<随筆>◇チンダルレコッ(つつじの花)◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 「♪ナボギガ ヨッキョウォ カシルテエヌン マルオプシ コイ ボネトゥリオリダ♪」(私を嫌いになって出て行かれる時は、黙ってそっとお送りしましょう)

 パンチの効いた歌声が朗々と会場一杯に響き渡る。余りの凄さに場内は静まり返った。この歌は、有名な詩人・金素月の代表作「チンダルレコッ(つつじの花)」を数年前に歌手のマヤが歌って大ヒットしたものだが、今、歌っているのはまだあどけない13歳の日本人女子中学生。場所はソウルの日韓カラオケ大会決勝戦も大詰めの舞台である。

 当社の元韓国駐在員で小生の友人でもあるS氏の奥さんが、日韓カラオケ大会の東京予選を突破して決勝に出場するとの話を聞いて応援に駆けつけたが、出場者のレベルの高さに驚いた。カラオケの普及で今や日本でも1億総歌手と言われるぐらいだが、歌にかけては韓国人のほうが一枚上だ。小生も歌は好きな方だが韓国へ来てすっかり自信を失くした。声量がまるで違う。でも、今日はちょっと様子が違うぞ。

 私の席の回りはいつの間にか初老のアジョシ(オジサン)、アジュンマ(オバサン)で一杯になっていたが、隣のアジョシが人懐っこい笑顔で話しかけてきた。

 「皆、エンカ同好会のメンバーですよ。私たちは毎週、鐘路3街のノレバンで日本のエンカを楽しんでいますが、今日はメンバーが2人、本選に出るので応援に来ました。昨年は私が本選に出ました」(ちょっと自慢気だ。でも今年は予選で落ちたの?とは聞けず)

 「私のニックネームは“イチュキ”」(五木ひろしのことかな?)

 「日本エンカの同好会は他にもたくさんあります。エンカはやはり日本です」(日本のエンカがこんな形で韓国に根付いているとは知らなかった)

 日本の旭川から来たというイルボン・アジョシが舞台に上がると、前方に陣取っていた日本人の団体から大きな拍手が沸き起こった。彼らは「韓国音楽友の会」のメンバーで、あいさつに立った会長の話によると日本には逆に韓国の歌を愛する同好会が各地で増えつつあるとのこと。韓流ブームは歌の世界でも深く浸透しているようだ。

 そうそうたるメンバーの中で友人の奥さんは韓国人とのデュエットで熱唱し、26人中、上位5人に与えられる歌唱賞に選ばれた。5人のうち日本人は2人。やはり韓国人の優勢は動かなかったが、今回は日本人も大健闘した。特に冒頭で紹介した女子中学生の歌は圧巻だった。案の定、グランプリを獲得したが、日記に「天才少女現わる」と書いておこう。

 隣のイチュキさんは仲間が惜しくも歌唱賞を逸したので、ちょっと悔しそうだったが、「貴方も今度、同好会に来てくださいよ。歌の世界に国境はありません」

 まさに同感!私も来年の出場を目指してカラオケに通うぞ。でも、軍資金が…。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。