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2008/08/08

<随筆>◇金尚淑・崔永五両理事長の功労◇ 桃山学院大学 徐 龍達 名誉教授

 社会的に大きな働きをされた1世たちが、つぎつぎと身罷る。初代駐大阪韓国総領事だった金鎭弘氏が、在外同胞財団などの協力をえて、『母国指向・在日同胞100年の足跡』をソウルで出版された。同書には調査不足もあるが、有功同胞発掘の第一歩として歓迎したい。

 在日韓朝鮮人(徐の統一用語)の人権擁護運動においても、実に多くの善意に支えられてきた実績がある。わたしたちの市民運動のうち、国公立大学外国人教員任用運動の成果は、中国人500人、韓朝鮮人300人を含めて、全世界の外国人研究者計1500人にとっても、同時にまた日本の国際化にとっても、はかりしれない意義をもつものと評価されている。その運動10年間で、1300万円(当時)の資金を投入したが、成果はいまや韓国人教員だけでも年収27億円以上(一人平均900万円)に達している。その運動の資金面での功労者をここに紹介しておきたい。大阪経済法科大学の故・金尚淑理事長、および京都韓国学園の故・崔永五理事長の顯彰になろう。

 まず、金尚淑理事長は1971年に、「経済と法律が社会の両論であり、これらを修めることで無類の人格を形成しうる」という理念のもとに同大学を創立された。翌72年から始められた国公立大学外国人教員任用運動に、当時、300万円を支援された。今から35年前の300万円は現在では何十倍になるだろうか。私は支援の返礼として、同大学に十数年間も非常勤講師をつとめたのだった。また金理事長は、その後、朝鮮籍同胞の韓国墓参団事業用にと、当時の趙一済公使に浄財1000万円を持参したことでも有名になった。

 つぎに、崔永五理事長は周知のように、京都韓国学園建設の第一の功労者である。約5億円もの私財を提供されて、今日の京都国際学園の基盤を築かれた功績は永遠に残るであろう。校舎建設予定地が民族差別のために銀閣寺、樫原、本多山へと変更を余儀なくされたが、驚くなかれ、実に25年にも及ぶ校舎新築の大業が達成されたのである。その崔理事長が私に200万円を預託された。その時の理事長の容貌はすがすがしく、あたたかい眼差しが忘れられない。

 世にお金持ちはごまんといる。だが尊敬に値するお金持ちは少ない。人間の価値は蓄財の金高によるのではなく、社会のためにどれほどお金を使ったのか、その金額の多い人が本当のお金持ちなのであり、また尊敬される人間である。

 浄財を醵出された金、崔両理事長に共通するところは、本来は自分たちがやるべき大学教員任用運動を、皆さんが代行してくれるのが嬉しい。どうぞ心おきなくお使い下さい、という非常に謙虚なお申し出であった点にある。寄付をしてあげるんだという高慢さが微塵もなかったことで、わたしが深く感動したあの日が走馬灯のように脳裡をよぎる。

 わたしが、育英事業で、50年間も「公乞食」(パブリック・ベッガー)ができた原点は、そういう高邁な人格者に出会える喜びにあったのかもしれない。


  ソ・ヨンダル 1933年韓国釜山市生まれ。神戸大学大学院博士課程修了。桃山学院大学名誉教授、在日韓国奨学会名誉会長、在日韓国・朝鮮人大学教員懇談会代表など。