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2008/07/11

<随筆>◇朴載日さんのこと◇ 崔 碩義 氏

 「文化センターアリラン」の創設者朴載日(パク・チェイル)さんは、脳梗塞の後遺症でここ数年、自宅で療養してきたが、六月二十五日、惜しくも死去された。享年七十八歳。私はこの欄を借りて哀悼の言葉を述べたいと思う。

 朴載日さんと私との交遊が、何時頃から始まったかははっきりしないが、十七、八年前、当時新宿にあった文化センターアリランの開設準備事務所でお会いしたことを憶えている。その後、頻繁に行き来するようになったのは、確か朴慶植(パク・キョンシク)先生の提唱した「在日同胞歴史資料館」の設立運動に一緒に関わった時からだが、その運動は結局、実ることなく終わった。

 私たちは年齢的にも近いし、どちらかというと考え方や境遇が似通っているのですぐに親しくなった。戦時中に日本の皇国少年として教育を受けた点でも同じである。彼の告白によれば「パンチョッパリ」という中途半端な状況に人知れず苦悩した時期があったということだ。しかし、これが後に文化センターアリランの設立に、彼を駆り立てた原動力になったといってもいいだろう。

 朴載日さんは一見、風采が上がらず、能弁でもないので幾らか損をしてきたと思うが、その純真で虚飾が少ない人柄で、周囲の人たちから愛されてきた。やがて彼の内面的な情熱、志のようなものが多くの人の心を捉え、すべての面で一目置かれるような存在になったのは間違いない。

 私が、朴載日さんを尊敬する理由を一言でいえば、彼が後半生になって、かねてからの夢であった文化センターアリランを設立して、在日の社会的文化運動に大きく貢献したからである。在日の中でこうした文化活動に自分の全財産を投じて献身した人物が果たして過去に何人いたか。残念ながら、在日は未だにかかる文化事業に無関心な人が多い。人はパンのみにて生きるにあらず、在日をいかに生きるべきかが真剣に問われている時代に我々は生きているのである。

 ここで文化センターアリランの事業について簡単に言及しよう。民族の歴史と文化を知るために、また、日本と朝鮮半島の交流、親善を深める場として、あるいは、梶村秀樹先生の蔵書をメインとする約四万冊もの書籍の閲覧などの図書館的役割、研究所機能、研究会活動などを活発に行なうのを目的としてきた。そのほか、公開講座や『アリラン通信』の発行、コリア語講座なども加わる。こうした事業を一九九二年十一月の設立以来、朴載日理事長、姜徳相(カン・ドクサン)館長の二人三脚で担ってきたはいうまでもない。

 最後に、故人の遺志に沿って、今後ともアリラン文化センターの事業が継続され、発展されんことを衷心から期待して止まない。

 朴載日さん!  永い人生本当にご苦労さまでした。どうか安らかに眠られよ。


  チェ・ソギ 作家。在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『韓国歴史紀行』(影書房)などがある。