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2008/04/25

<随筆>◇外 車◇ 武村 一光 氏

 この冬一番寒い2カ月を宮古島で過ごした。長期滞在とあって予算の関係から民宿を利用した。毎日、自家製の野菜、取れたての海藻や魚、そして豚肉、盛り沢山の宮古島の家庭料理を堪能した。散歩と読書のゆったりした生活を送っていた。

 宮古島は沖縄本島から200㌔南に位置し、面積は済州島の約十分の一もない。島全体が平坦で、美しいサンゴ礁の海に囲まれている。だからマリーンスポーツが人気の的であり、更にトライアスロンやマラソン大会など、若者の人気スポット、空港には毎日何便もの飛行機が離発着している。大型のカーフェリーも来るのだ。

 この島を訪ねる人達の交通の便はタクシーかレンタカーだ。バスも走っているが旅行客が利用するのはちょっと難しい。タクシーは初乗り390円と安く、レンタカーはたまたまオフシーズンということもあって、1日3~4000円で借りられる。初めのうちは気が付かなかったが、ある日、あれっ、あの車なんだ、と走り回るレンタカーに目が行った。

 赤、青、黄色、黒、など色とりどりの車は今まで見たことがないものだった。明らかに国産車ではない。こんな外車、内地では見たことがなかった。ところがよく見ると現代自動車、いわゆるヒュンダイの車、韓国産なのだ。

 妻が陣中見舞いに3泊4日で来たのを機に、私もレンタカーを使った。迷わずこの車を選んだ。名前はTBといった。受付嬢はソナタやグレンジャーもありますと胸を張った。共に懐かしい名前であった。TBは1300㏄で人気ナンバーワンだそうだ。4日間のレンタカーライフ、TBライフは私たち夫婦を十分にエンジョイさせてくれた。

 韓国は今まで日本に国産車を輸出しようと試みている。私の記憶では過去2回はうまくいかなかった。ヒュンダイが3度目の挑戦のはずだ。代理店を全国に配置し、広告を大々的に掲げ、大型保障キャンペーンをやったりでかなり力を入れている。その割に街でヒュンダイ車をあまり見かけないのはどうしてだろう。これだけ力を入れても韓国最大手の現代自動車ですら日本市場への進出は難しいのだろうか。

 私自身、自分で車を選ぶとなると対象は国産になってしまう。ソウルで4年間ヒュンダイの車に乗っていたのに、買おうという気にはなれないのだ。ところが不思議なものでレンタカーとなるとこのTBに乗ってみたい気になった。離島がゆえに思い切って気分転換を図る一環としてTBを選ぶことになったのかもしれない。これがタクシーであっても同じ心理が働くだろう。

 寒い内地と比べて10度は高い冬の宮古島、風邪も引かず退屈もせず2カ月を過ごせたのは、派手な黄色のTBに乗ったお陰かもしれない。


  たけむら・かずひこ 1938年東京生まれ。94年3月からソウル駐在、コーロン油化副社長などを歴任。98年4月帰国。日本石油洗剤取締役、タイタン石油化学(マレーシア)技術顧問を歴任。茨城県鹿嶋市在住。