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2009/03/20

<随筆>◇花より男子より芸術◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 今年も桜便りが聞かれる候となりましたが、淡い可憐なピンクの花を思い浮かべるたびに、抜けるように白い肌をほんのりと桜色に染めながら、ワイングラスを片手に夢見るような大きな瞳で夢を語る彼女の事を想い出す。彼女の名は沓名美和さんで通称「博士」。話題はちょっと難しい芸術談義だが、それもそのはず、今年、ソウルの弘益大学美術大学院を卒業したばかりのうら若き美人芸術家で、私たちオジサンのアイドルです。

 「博士」は祖父と母上が書道の達人という芸術一家に育ち、日本では多摩美術大で陶芸を、韓国では東洋画を学んだマルチ芸術家。すでに展示会も何回か経験しているが、昨年末、大好評を博した個展「欲望装置」を見に行っていささか衝撃を受けた。作品の中で官能的な格好をした美女が能面をつけた絵は何を現わそうとしているのか?

 芸術には全く門外漢の小生の不しつけな質問に、「博士」は大きな瞳をキラキラさせながら語り出した。

 「日本人は自分の感情を現わさない、本音をなかなか言わないことを美徳とした文化の中で育ってきたが、それは仮面を被っているようなもので、そんな日本人を外から見た姿を描き写したかった。仮面を被りながらもきちんと自分を主張できる…そんな作品を作ってみたかった」

 「セクシーな女性のモデルは実はタレントのほしのあき。私は彼女のあどけない童顔と豊満な肉体のアンバランスが大好きで、テレビの中の彼女は過激な質問にも笑顔を絶やさない。多くの外国人にも人気のある彼女は仮面を被った日本女性の象徴的なイメージだが、仮面の奥の彼女の叫びを聞いて欲しかった」

 少し分かったような気もするが…実は私も別の意味(?)でほしのあきのファンです。

 「でもかなり前衛的な表現ですね。貴女は東洋画が専門とお聞きしましたが?」
 
 「あくまで東洋画をベースにしながら、日本と東洋のアイデンテイテイを探すことが自分探しにつながり、それを“今”という土俵で表現して行きたい。そして、私の表現が皆さんの感動を呼べるような作品を作りたい」

 「もう一つの私の夢は、今はバラバラのアジア各国、特に日本、韓国、中国の芸術家が自由に交流できるような場を作ること。すでに一部の人と一緒にAFF(Asia Future Flag)を立ち上げたが、これは文化、芸術を通してアジアの未来の形を模索する団体です」

 うーん、若いのにただ者ではない。すでにアジアの将来を描いている。

 「でも、ほしのあき以上に魅力的な貴女なら韓国の男が黙っていないでしょう?」。陳腐な質問に笑いながら「当分は“花より男子より芸術”です」。きっぱりと言い返された。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。