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2009/11/27

<随筆>◇ヘンボギラン(幸せとは)◇  韓国ヤクルト共同代表副社長代行  田口 亮一 氏

 ここんところ体力の衰えを感じることが多くなりました。今年の2月からケクッシ(きれいすっぱり)煙草もやめて毎朝30分の歩け歩け運動も雨の日以外必ず実行しているにもかかわらず、「セサン、マンサ、クチャンタ」(世の中の万事全てが面倒臭い)症候群に陥ったようです。要するに何事に対しても興味がうすれ、やる気、気力がなくなってきたと云うことです。40代、50代前半まではほぼ毎日通った漢南洞カラオケにも、とんとご無沙汰だし、若くてアルンダウンアガシ(美しいお嬢さん)にももてたいとも思わない。ゴルフもやるが、以前みたいに「もっと上達したい」とも思わない。20年近く通ったヤンクィ(ミノ焼き)、コプチャン(ホルモン焼き)の専門店「コンパウィ」にも行かなくなった。

 「ナンダこりゃ、このままでは俺は生きた屍と同じじゃないか。人生まだまだ、これからという時に、俺の幸せはどこに行ったんだ。肉食系に戻りたいよーッ」とピミョンソリ(悲鳴)をあげても、むずかしいんですね、こればっかりは・・・。そんなある週末のこと、ゴルフシーズンも過ぎ、珍しく暇になった土曜の昼、久しぶりにチプサラム(家内)とチョムシム(昼食)デートをする事になりました。先に書いたように焼肉系統は余り行かなくなったので、最近は押鴎亭(アックジョン)の「カムジャパウィ」といった韓定食屋が主なチョムシムデートコースになっております。お値段も手ごろで、ナムル、チャプチェ、川カニケジャン、クルチョン(カキ天)などの他、沢山のキムチ類、野菜類が有り、健康には本当に良さそうです。

 ここで私どもはビールの小瓶3本と焼酎1本を必ず頼んでチプサラム3分の1、私が3分の2の割合で楽しみます。休日のお昼のこのたぐいの店は、テーガン(大体)私たちと同じ位の熟年夫婦か家族連れで、若い人達は余りいないので会話も少なく、静かなひと時といえます。本日は多少私事が多くて恐縮ですが、ほろ酔い加減で好物のケジャンに舌づつみを打っているチプサラムをふと見ると、苦労をかけっぱなしだった若い時のことが想い出されて、「すまんこってしたナァ」と殊勝な気持ちになったものでした。もう酒に飲まれて酔ッ払らえなくてもいい、唄を歌ってお世辞の拍手をもらえなくてもいい、若いイップニ(美人)のたわ言を聞かなくてもいい、ゴルフも90を切れなくても上等だッ。こんなおだやかな時の流れに身をまかせて(聞いたことあるナ?)ゆったりとした時間を過ごせるなんて、これ以上の幸せが何処にありましょうか。

 私はチプサラムとのささやかなチョムシムデイトで人生の真髄をチャバッスムニダ(つかみ取りました)。皆さん、ヘンボギラン(幸せとは…)常に自分の身近にあり、変わりのないもの、即ち平凡な日常の中にあると悟りました。「平凡が何より」が最近の私の口ぐせです。


  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。