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2010/02/05

<随筆>◇ビビンバの世界化◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国のごく大衆的な“料理”であるビビンバは、以前は日本では「ビビンパ」といっていたように思う。韓国が身近になり、韓国旅行が増えるようになってから「ビビンバ」に変わったように思う。周知のように正確には「ビビムパプ」なのだが、最近の韓国語のローマ字表記では「BIBIMBAP」となっているので、日本向けには「ビビンバ」でいいのかもしれない。

 このところ韓国では「韓国料理の世界化」がかまびすしい。この一つのきっかけになったのが日本における“ミシュラン騒ぎ”だ。スシ屋をはじめ日本料理の店が、フランスのグルメ雑誌で高く評価され大きく紹介されたからだ。

 韓国でもさっそく「日本ができるならわれわれも」と、韓国料理の国際的売り出しが始まった。そのトップバッターにビビンバが選ばれ、官民挙げてPRが展開されている。日本を意識してのことだから「ビビンバもスシのようになれば」というわけだ。

 ビビンバが何かと話題の中で、ふと思ったのだが、ビビンバの専門店というのがどれくらいあるのだろう。日本ではスシ屋は全国で何万(ひょっとして何十万)軒もあるだろう。ところが韓国ではビビンバの専門店はほとんどない。

 たとえば全州の中央会館などビビンバで有名な店がソウルにも出店しているが、ビビンバ一本ヤリというわけではない。ましてスシ職人のようにビビンバ専門職人などというのは聞いたことがない。料理学校などでビビンバ料理人を養成しているという話もない。ビビンバもスシを意識するのなら、このあたりのことから考えてみる必要があるだろう。ローマは一日にして成らず、である。

 ところでぼくは韓国暮らしで三十年近くビビンバを食べてきたが、最近、気に入っている一つは「セサク・ビビンバ」だ。「セサク」というのは“芽”のことで、いろいろな植物の種の“カイワレ”を食材にビビンバにしたものだ。これは彩りもよくビタミン満点の感じで一人暮らしにはぴったりだ。

 もう一つは「ポソッ・ビビンバ」で各種のキノコを素材に酢醤油でビビって(まぜて)食べる。コチュジャンの代わりに酢醤油がいい。そのほか豆腐や焼肉、カニ肉なども使ったフュージョン風のビビンバもあり、結構いただける。

 ぼくの昼飯はもっぱら事務所のある光化門あたりだが、ビビンバ専門店もある。お粥の「本チュク」グループがやっている「本ビビンバ」は伝統庶民風で、ニュービビンバ系は三星系のCJがやっている「SOBAHN」がそうだ。お気に入りのキノコ酢醤油ビビンバは以前は「春の日の麦飯」といった「モラック(湯気がもやもや)」という名のお店。ぼくのビビンバ食歴も長くなったが、あの伝統風かき混ぜこねあげは今でもなかなかなじめない。素材の彩りを生かしながら自分流で楽しくいただいております。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。