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2010/02/26

<随筆>◇ダルマ・クァジャン(課長)◇ 韓国TASETO 大西 憲一 専務理事

 最近は毎日の地下鉄通勤が楽しい。と言っても変な想像は止めてください。アパートから徒歩5分の地下鉄2号線「金蓮山(キムヨンサン)」駅で、次の乗り換えにもっとも便利な最後部車両に乗り込むとすぐに網棚に目をやる。そこにはまず間違いなく読み捨ての朝刊紙が置いてあるので、躊躇なくゲットして読みだす。

 最初はさすがにちょっと気が引けたが、慣れると何でもない。私だけでなく老若男女みーんなやっているからである。そして読み終わるとまた網棚にポイ。すぐに横にいたオジサンが待ち構えていたように手を伸ばす。こうして一つの朝刊紙が何人もの乗客に愛読され、自然なリサイクル・システムが出来上がっている。名付けて「網棚リサイクル」。でもこれは車内美化には反するかも。地下鉄公社さん、御免なさい。

 リサイクル朝刊紙は、地下鉄の出入り口に置いてあるいわゆる無料新聞だが、部数に限りがあるので網棚リサイクルに依存することになる。私の愛読紙はFOCUSとMETROだが、特にFOCUSの人気連載漫画「ダルマ・クアジャン(課長)」がお目当て。大きな目玉に太い眉、そしてダルマのような見事なツルツル頭の主人公は某企業の課長で、脂ぎった中年オヤジの匂いがプンプンしていて若い社員、特に女性からは敬遠されている。でも、ダルマ・クアジャンは怖そうな見かけによらず人が良くて、ちょっと間抜けで悪戯好きと、どこにでもいそうな中間管理職ぶりに我らオジサンは共感を覚える。

 ところで韓国には広告収入だけの無料新聞が結構多いが、業界に詳しいNさんの話では、METROとFOCUSの2大紙が特に好調で発行部数も60万部に近いという。一方、一般紙の朝鮮日報や中央日報は以前は200万部などと言われていたが、最近はインターネットの普及や無料新聞の影響をかなり受けているとのこと。

 韓国でも深刻な活字離れの昨今、手軽な無料新聞は読者のニーズをキャッチしているようだが、お隣の日本では法令で新聞の路上配布ができなかったり、ニュースの提供に制限があったりで、無料新聞はやりたくてもできない状況らしいですね。何とかならないかな。

 さて、韓国は楽しいソル(旧正月)休みが終わったばかりだが、数日前の「ダルマ・クアジャン」には参った。娘が帰宅したら母親がサングラスをしながら、ソルのお客の料理を作っている。「オンマ(お母さん)、いくらソルだからと言ってもなぜ家の中で映画スターみたいにサングラスを?」「ゴチャゴチャ言わないで、これを部屋に持って行って」「はーい、女優様」「ちょっと、貴女もサングラスをして行きなさい」訳が分からずブツブツ言いながら娘が部屋に入るや否や、「ワーッ、まぶしい!」。そこにはダルマ・クアジャンを始め、同じような頭の兄弟たちが光り輝きながら花札に興じていた。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。