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2010/03/05

<随筆>◇韓国の盆暮れ◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国では年二回、贈り物シーズンがある。日本では夏の「お中元」と年末の「お歳暮」だが、韓国にはそうした言葉はなく、旧暦八月十五日の秋夕(中秋節)と「ソル」(旧正月)に合せ贈り物が行き交う。

 バレンタイン・デーのような個人的プレゼントというより、相手の家族を考えたような贈り物が多い。その意味では日本と似たところがあって、贈り物の内容もお酒や果物など食品や生活用品が多い。日本と違うところは肉食文化の国らしく、昔からカルビなど生の牛肉が贈り物に使われるところが、エキゾチックで面白い。

 筆者は一人暮らしなのでそれほど贈り物の往来は多くないが、それでも結構、届け物がくる。今年も旧正月(二月十四日)にいくつかの贈り物が届いた。

 毎年の楽しみの一つは大統領官邸からの贈り物だ。外国人記者も対象になっていて、年二回、「今回は何かな?」と期待と興味が膨らむ。時にはその中身がニュースになることもある。

 今年の旧正月は煮干と切り餅の詰め合わせだった。韓国でも正月には餅を食べるが、その餅は日本と違って普通の米で作った棒状の硬い餅で、それを薄くスライス状に切って煮て食べる。

 だからスープに使う煮干も一緒に贈られてきたのだが、日本的感覚で言えば「えーっ、大統領官邸からダシジャコか?」と思うけれど、牛肉ダシが一般的な韓国では逆に煮干は結構、喜ばれるのだ。

 大統領官邸からの“盆暮れ”の贈り物はそれなりに意味があって、毎回、地域振興のため各地の農産物や特産品がよく使われる。今回の餅というのは、近年、米の消費量が減って米余りが深刻なため、お米消費のPRという意味があるようだ。

 今年、いろんなところから旧正月に届けられた贈り物のうち農産物は、リンゴ、ナシ、ミカン、マンゴー、インサム(高麗人参)だった。いずれも韓国らしく(?)大きくて立派な箱に詰められており、見栄えがよくて量も多い。

 ところが残念なことがある。とくにミカンがそうだったのだが、ダンボール一箱のなかで二十個以上がカビが生えて腐っているのだ。これはいかん。さらに十五個ほどしかない 大型の高級リンゴでも、傷みの入ったのが数個あった。高価なインサムにもカビが生えたのがあった。

 美しく包装された贈り物用でもこうだから、日常的にはこのたぐいがよくある。イチゴなどパックされた下のほうにはいつも傷んだのが多い。野菜でも傷んだ部分が結構あって、捨てるところが多い。消費者は「そういうものだ」と思っているのか、実に気の毒だ。

 うれしい贈り物の話から、つい日ごろの愚痴が出てしまいました。これも愛情からなのですが。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。