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2010/07/16

<随筆>◇ライバル復活?◇ 韓国TASETO 大西 憲一 専務理事

 「スゴーイ。チュッカハムニダ(おめでとう)」日本がデンマークに快勝して決勝トーナメント進出が決まるや否や、同僚の李さんから携帯にメッセージが入った。深夜から始まった試合を彼は見ていたらしい。続いて取引先の金社長からもメッセージが到着した。「デンマーク戦辛勝、チュッカハムニダ」こちらは快勝と思っているのに辛勝はご愛嬌だが、それでもこの時間のメッセ―ジは嬉しいではないか。

 決勝トーナメントの1回戦では両国ともに南米チームに惜敗して8強進出はならなかったが、同じ敗退でも韓国人の心境は複雑だったに違いない。W杯直前の日本との強化試合にも楽勝して史上最強チームと噂された韓国は16強は当然、組合せにも恵まれて4強も夢ではないという空気が国中に充満していた。4強の場合の経済効果は○○兆ウォンとマスコミも囃したてた。

 一方、日本の意外な健闘ぶりに当地の人はみんな驚きと戸惑いを見せていた。もっとも日本人の大多数が、いや、岡田監督自身さえ予想しなかった結果だと思うが、「日本は強いですね」「やりますね」賞賛の言葉の裏に複雑な心情が窺われた。「韓国が頑張るので刺激を受けたんですよ」若干のお世辞を込めたが、まんざら嘘でもなかったと思う。

 韓国がウルグアイに負けた時は正直に言って「ヤバイ」と思った。これで日本が勝つと面倒なことになるぞ。「アジアの名誉のためにも日本は頑張って」。キレイ事を言う人は多いが、私には韓国人の心情が痛いほどよく分かる。実際にその後の日本とパラグアイ戦では、パラグアイを応援した人が多かったようだ。ほぼ全員だったかも知れない。「すみません。無意識のうちにパラグアイを応援していました」一杯やりながら同僚の李さんも素直に認めた。

 何も謝ることはない。至極当然です。それが愛国心です。その「負けじ魂」こそ韓国人の真骨頂です。それにもし立場が逆であったら、日本人は韓国を応援しただろうか?

 中央日報の「時論」に掲載された「日本がなくても韓国はここまで頑張れただろうか」という新世界・具会長の談話がおもしろい。曰く、隣に強いライバルがいてこそ強くなれる。サッカーだけでなく、野球、フィギュアスケートがそうであり、経済界でも今や世界企業となった三星電子、現代自動車、ポスコなどは日本のソニー、トヨタ、新日鉄があったからだと。そして、最近では日本企業が韓国から学ぼうとしている動きに驚いている。

 これまでいろんな分野で日本は韓国のベンチマークであり、ライバルであり、それが結果的に韓国の成長、発展に繋がって来たが、昨今の日本の弱体化現象は痛しかゆしである。

 岡田ジャパンは兄貴分のメンツを保つと同時に、久しぶりにライバル心に火を点けてくれた。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。