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2011/03/18

<随筆>◇「ヒムネラ!イルボン」(頑張れ!ニッポン)◇ 韓国TASETO 大西 憲一 専務理事

 「凄い地震!もうダメかと思った!」11日の金曜日午後3時前に日本の留守宅から興奮した声で緊急電話が入った。地震にはすっかり慣れっこの日本人なのに、この慌てようはただ事ではないなとインターネットを見て、東北地方での大地震発生を知った。でも、その時はまだこれほどの惨事になるとは思わなかったが、その後の巨大津波、火災、原発事故で日本中がひっくり返った。

 週末はNHK海外放送にかじりついていたが、あまりの酷さに目を覆いたくなった。「これは映画ではない。現実です」。アメリカのテレビが生々しく報道している。まるで「地球最後の日」のような光景の連続に戦慄を覚えた。

 「オニシサン、カゾクハ ダイジョウブデスカ?」。韓国の友人から多くの見舞い電話を貰った。早々と心配してくれる友人に涙腺が緩む。私の家族、親戚は被災地から遠く離れているが、でも、同胞が地獄を味わっているときにどうして自分だけの無事を喜べようか。

 「ヒムネラ!イルボン」(頑張れ!ニッポン)。韓国の朝刊一面に日本を激励する見出しが躍っている。「日本、ここにあり…大惨事でも配慮忘れぬ文化に世界が驚いた」。中央日報は、大災害を受けながらも極めて冷静な日本人の態度に先進国を見たと賛辞を贈っている。大混乱の中で号泣も、買い占めも、略奪もない世界に感動したと韓国メデイアが驚いている。でも、顔にはあまり出さなくても被災者の大きな悲しみと心の傷を我々は知っている。

 「明日は我が身」。韓国では早速、自国の災害への備えに警鐘を鳴らしている。韓国は地震のない国と聞かされてきた。現に私は駐在して通算20年を超えるが、これまで地震を経験した事は一度もない。正確に言えば4~5年前にソウルでかすかな揺れを感じたが・・記録を見ると07年1月20日に江原道でマグニチュード4・8の地震があって大騒ぎしていた。

 ちなみに、地震のない国・韓国では耐震設計とは無縁の世界だったが、「絶対来ない」という保証はないので、05年から3階以上または1000平方㍍以上の建物には耐震設計が義務づけられている。ところが今でも対象となる施設の80%が無防備だとのこと。

 「ソウルや釜山に震度5の地震が来たら全滅や」とはよく聞く話だが、実際に起こるとは誰も考えていない。私は釜山の海岸沿いにある、築30年以上の老アパートに住んでいる。数年前に韓国でも大ヒットした映画「海雲台」は韓国有数のビーチ・海雲台が大津波に飲み込まれる怖い映画だったが、私のアパートはすぐ隣の海岸線にある。地震と津波が来たら間違いなく助からない。でも、来ないと信じて住んでいる。甘いかも知れない。

 カナダ人某作家が大作「全ての未来」(韓国語訳)で語っている。「人間は絶対に未来を予知できない」。大自然の前で無力な人間はどうしたらいいのだろうか?


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。