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2011/07/01

<随筆>◇韓国ビール戦争◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 ソウルでは日本風の“居酒屋”ブームだ。この業界の日本風では以前、炉端焼きがブームになったことがある。韓国語風に「ノバタヤキ」などといっていたところもあった。流行が去り、今やほとんど見かけなくなった。居酒屋ブームもいつまで続くことやら。

 居酒屋に行くと酒は主に日本の酒を出す。その際、ビールとなるとほとんど「アサヒ」である。韓国では最近、輸入モノでは日本のビールがトップを占め、なかでも「アサヒ」のシェアが圧倒的なのだ。この独占ぶりは消費者のためにはまずい?そこでぼくはいつも「サンケイはないの?」といってからかう。すると従業員は当惑し「うちはおいてません…」という。ぼくは重ねて「アサヒよりサンケイの方がキレがよくてうまい。日本では通はサンケイなんだぞ…」と真面目くさっていう。

このジョーク分かります?

 先日、珍しくサントリーが置いてある店があって「サントリー・プレミアム・モルツ」が出てきた。これを飲んだ韓国の友人が「うまい!」と感動した。その後も韓国人にこれを飲ませるとみんな「うまい!」といい、日本ビールの水準を絶賛していた。

 「サッポロ」の話もしなくちゃ。

 「サッポロ」は地名のイメージから知名度は最も高いかもしれない。韓国人には名前の語感もいい。ドラマや映画、小説、旅行などから、若い女性にはあこがれのイメージだ。これを生かせばもっとシェアはのびる?

 「キリン」もあったな。一時、この名前のついたビア・レストランを見かけたが、今やあまり見かけない。どうしたんだろう。日本通の年輩者は今でも日本ビールの代表銘柄は「キリン」と思っている。権威主義的な韓国人だから、「日本を代表する伝統のキリン」は結構、がんばれると思うのだが。

 輸入モノでは「アサヒ」の前はオランダの「ハイネッケン」がシェア1位だった。親米国(?)だけに「バッドワイザー」や「ミラー」など米国モノもよく売れる。中国の「青島」も善戦している。輸入ビールを取り揃えたビアホール「WA-BA(韓国語の掛けことばで“きてみて!”という感じか)」チェーンも人気だ。輸入ビールの攻勢を受け韓国産も多様化で対抗中だ。ハイト系の「MAX」はモルツが売り物で、同じく「S」は低カロリー、「Dフィニッシュ」はドライと銘打っている。

 OB系も脱ライトの「レッド」や「CASSレモン」などを売り出しているが、いずれもまだこれといった爆発的ヒットにはなっていないようだ。

 内外入り乱れてのビール戦争は消費者にとってはうれしい。ただ韓国人のビール文化には問題があるように思う。飯を食った後、ビアホールに、というのは解せない。あれじゃモルツもドライも可愛そうです。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。