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2012/03/02

<随筆>◇サービス戦線 天極と地獄◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国では最近、注文した家電製品が家に届くと、後で店(サービスセンター)から必ず電話があり、約束の時間にちゃんと届いたか、配送者の態度はどうだったか、製品に問題はないか、など電話で聞いてくる。

 先日、ケーブルテレビの映りがよくないので、サービスセンターに調整を頼むと人がやってきたが、こちらも同じような気配りで親切この上ない。

 銀行でも送金到着は電話とメールで必ず連絡があり、あいさつされる。窓口の態度もいい。病院は通院予定の前日に必ず連絡があり、日時を忘れないようにしてくれる。

 さらに入管からはビザ切れが近づくとケイタイにメールが入り、更新期日を知らせてくれる。入管のこのサービス(?)は不作為のオーバーステイを防ぐのに効果がある。あるいはビザ切れが直前に分かってあわてることもない。この話はもうかなり前に、日本大使館の幹部に「日本でも見習ったらどう?」と勧めておいたが、どうなったかな?

 それから、筆者は韓国での長期滞在者(居住者)だが、一時帰国で日本に行き、ケイタイをローミングして日本でも使えるよう切り替える。するとすぐ、韓国の外交通商省から領事サービスとして緊急時の連絡先がメールで入る。

 海外での自国民保護のための対応だが、外国に出かけこの電話メールに接するとまず安心である。これも日本の外務省関係者に「見習ったらどうか?」と言ったことがあるが、日本はまだやっていないようだ。

 一九七〇年代に初めて韓国に来て、百貨店でモノを買おうとした時の女子店員のぶっきらぼうな二つの言葉―「オプソヨ(ありません)!」「モルラヨ(知りません)!」の時代からは想像を絶する、韓国サービス戦線の変化だ。

 韓国ではまた「エイエス」という言葉を日ごろよく耳にする。「アフターサービス」の略語なのだが、これがローマ字の略字で一般的に通用しているのだ。今や“サービス”が、それほど韓国社会で重視されていることを意味する。

 ところが一方で、外国人観光客相手のいわゆる“パガジ”がいまだ横行しているのはどうしたことだろう。

 “パガジ”とは法外な値段の吹っかけ、ぼったくりのことだが、その被害者の多くは韓流ファンなど日本の女性観光客たち。タクシー、屋台、市場がワースト3で、中にはただ今、国を挙げて売り出し中の美容整形など医療観光にもそれがあるとか。

 韓国人は「自尊心」という言葉が大好きだ。こういう時こそぜひ得意(?)の「自尊心」を発揮して日本人相手の“パガジ”を自粛、根絶してほしい。あるいは以前、日本人相手の「特別値段」がばれて香港旅行が激減したように、日本の方で韓国旅行ボイコットの声でも上げてみるか。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。