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2012/04/20

<随筆>◇不毛地帯◇ マッカン・ジャパン 大西 憲一 代表

 「総合商社の研究」(田中隆之教授著)という本の出版記念シンポジウムに参加した。日本の商社は今や海外でも「SHOSHA」として通じるが、総合商社のことなら何でも分かるというこの本は、日本貿易会の特別事業として出版されたもの。

 ガラにもなく真面目な集まりに顔を出した理由は、私自身が縁あって総合商社にお世話になり、数年前まで在籍していたからです。

 入社の動機は…「商社なら海外に行けるかも」という単純なものだった。その結果、海外(と言っても隣の韓国ですが)から足の抜けない人生になりました。

 当時は海外へ行くことが男たちの夢だったが、今は海外駐在を嫌う若者が多いと聞く。我々世代には信じられないし、聞くだけで情けない。

 韓国ではよく聞かれたものです。

 「総合商社って何するの?」

 「商社のデパートのようなもんです。ラーメンからミサイルまで売ってます」

 昔はこんな返事でごまかしていたが、その後、商社の機能がどんどん複雑になって一言では説明できなくなった。というより私自身、全体を掴みきれなくなった。

 数年前に釜山の東西大学で、「総合商社とは何ぞや」というレクチャーをやらされたが、難しい質問の連続で冷や汗をかいたものだ。

 「商社斜陽論」や「商社冬の時代」という言葉も何度か聞いたが、商社は不死鳥のように逞しく生きている。70年代後半に実在の商社マンをモデルにした山崎豊子著の「不毛地帯」はベストセラーになった。

 大型商談を巡っての商社同士の激しい戦いが見どころだが、主人公・壹岐正(近畿商事)のライバルの鮫島部長(東京商事)は、実は私の雲の上の上司だった。猛烈商社マンを地で行くような人で、今や「伝説の商社マン」として語り継がれている。

 韓国にも猛烈商社マンがいましたね。すでに引退されたが某グループのK会長。タイプは異なるが、K会長の圧倒的な存在感に接するたびに鮫島部長の姿がダブったものです。

 韓国も一時期、総合商社が華々しく活躍していたが、その後、思ったほど発展していない。

 昨今は各社とも総合商社というより資源開発投資事業に軸足を移している。欧米も商社は成功していない。では、なぜ日本だけ残っている?

 パネリストで参加した現役商社マンで売れっ子エコノミストのY氏によれば、「原理原則で説明できない不思議な集団」「オプチミズムを共有する集団」そして意外にも「典型的な日本企業」。総合商社はスマートな国際企業と見られがちだが、実は泥臭い日本企業で、だから私も生き残れたのです。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表。