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2012/06/08

<随筆>◇「日本はまだ先進国である」◇広島大学 崔 吉城 名誉教授

 先日、人生の最も活動期である40代に13年間勤めた大学、今は大学天国のように大勢の学生が学んでいる啓明大学校を訪問し、申一熙総長を表敬訪問した。申総長とは難しい1980年代を一緒に苦労し、克服した歴史を共有した経緯があり感慨深かった。教員たちの招待午餐、そこから直接、演壇に立った。150余人の学生と諸先生方の前で緊張しながら語った。日本の大学では一般的な私語をする学生は一人もいなかった。

 日韓を往来して事業する人から聞いた話、サムスンのスマートフォンなどの成功によって、電子商品など技術的に日本を追い越して、「日本はすでに先進国の座を譲った」という話を語った。主婦たちは、人気の高かった日本製の電気炊飯器はもう要らない、韓国製圧力炊飯器は最高だと強い調子で話していた。家庭生活改革の3神器ともいえるテレビ、冷蔵庫、洗濯機の技術はもちろん、サービスまで韓国のほうが優位だと思っている。韓国の経済成長は活気の溢れる青年期といえる。このような一般的な言説を例にして話を進めた。

 青年期の韓国に比べて日本は老年期であり、日本が韓国に負けているのは当然といえば当然であろう。青年と老人は比較することができない。なぜなら青年は必ず老人になるからである。つまり韓国も日本のようになるということである。老人差別は差別とは言えないほど自分に戻ってくるものである。私はいつも若いと言われ、自分自身も若いと思ってきたがすでに老人になっている。青年期に老後を考えなければならない。敬老思想は旧態の因習だと非難した青年が、老人になって敬老思想が弱いなどと嘆いても意味がなく、老人が敬老思想を訴えても遅すぎである。韓国もすでに高齢化が進んでおり、若い韓国がすぐ老国になることへの警告でもある。

 私は講演で「日本はすでに先進国ではない」の逆説に「日本はまだ先進国である」と論じた。私は二つの例を挙げた。一つはバスを例にした。ノンステップ、座席ごとに降りることを知らせるボタンがあり、「止まります。危険ですので止まってからお立ちください」とアナウンスがあり、運転手が客の状況をみながら運転すること、もう一つは道路などの段差をなくす工事など高齢者社会への対応などでは日本は先進国であると主張した。これは少子化と高齢化が早く進む韓国にとって良い老人天国モデルを提供しているのではないかということと、高齢化社会の福祉などで老人天国型先進国であると述べたのである。

 啓明大学校の経営関係者と教授らと歓談をした時に日本の大学が少子化に伴って苦労することを例にして、韓国は大型大学から小規模へ、質を高めることを提案した。日本の大学は小規模な教育、寺塾精神に戻り、人性教育などを含め、教育の質を高める良いチャンスとして充実すべきである。


  チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、広島大学教授を経て現在は東亜大学・東アジア文化研究所所長、広島大学名誉教授。