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2013/02/22

<随筆>◇教養と教育◇ マッカン・ジャパン 大西 憲一 代表

 「秋、冬に生まれた人はうつ病に注意してください」

 「韓国でも最近はうつ病による自殺が急増しており、麻浦大橋には自殺防止の写真や標語がいっぱいです」

 「うつ病防止には、黒ゴマや黒豆、海苔など黒い食べ物が効きます」

 私は黒ゴマ大好きなので一安心だが、最近、落ち込むことが多いので、もっとゴマの量を増やそうかな?

 ここは、釜山市役所の前にあるグローバルセンター。毎週第二土曜日に開かれる「韓日友好交流会」のモイム(集まり)で、約40人の聴衆が熱心に講師の話を聞いている。今日のテーマは「八字と疾病」。誕生干支、季節、方角と疾病の関係だが、韓国語なので難しかった。

 釜山には土地柄か、日韓親睦団体が多いが、この「韓日友好交流会」はちょっとユニークだ。メンバーは会社員、公務
員や教師に、飲み屋の主人や主婦まで、年代も20代から80代まで多岐にわたっている。まさに異文化交流である。

 この会の一番の特徴は、毎回、会員やゲスト講師による講義があること。テーマは講師の自由だが、歴史あり、文化あり。言葉も韓国語あり、日本語あり。

 以前、下関市の派遣員・Uさんは「長州の志士」について深く掘り下げて発表したが好評だった。私の時は得意の「ユーモアのススメ」を面白おかしく話したつもりだったが緊張して見事にスベッてしまった。誰も笑わなかった。

 古参メンバーの朴さんは今年67歳になるが、週3回、老人福祉館などで日本語の講師をしながら、繁華街の地下鉄駅や観光地で日本語通訳のボランテイアをされている。釜山には朴さんのようなボランテイアが大変多い。皆さん、年配だが笑顔を絶やさず元気いっぱい。お世話になった日本人観光客は少なくないはずだ。

 「美味しい店を紹介したり、荷物を持ってあげたりします。私は日本人とお話しするのが楽しいです」

 朴さんは淡々と語っている。

 「韓日友好交流会」の四代目会長の崔さんは高校の先生。学生を長崎に引率したり、国際フォーラムに参加したり、青少年交流にも熱心だ。

 皆さん、肩肘を張らず、自然体で取り組んでいる。肩書き一杯のお偉いさんで占めている親睦団体が多い中で、地味ながら日常業務のように淡々と日韓交流に努力されている人達を忘れてはなるまい。今回、特別参加としてスピーチの機会があったので、以前の失敗講義のリベンジのつもりで日本で仕入れた親父ギャグを披露した。

 「年配者にとって大事なものが二つあります。それは教養と教育です」「教養とは、今日する用事があること。教育とは今日行くところがあることです」

 爆笑を期待したが、皆さん、ポカーンとしている。やむなく、もう一度、説明したら、「なーるほど」と感心された。どうやら、またスベッたようだ。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表