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2013/06/28

<随筆>◇幻のコーヒー◇ マッカン・ジャパン 大西 憲一 代表

 長年の韓国暮らしから日本に帰って来て困ったことの一つが、コーヒーショップが少ない事。都内で友人にバッタリ会った時、ではお茶でも飲みながら、と店を探してもなかなか見つからない。かなり探し回ることになるが韓国ではこんなことは絶対ない。

 友人に「日本は何で少ないの?」と尋ねると、「そんなことないで。韓国が多すぎるのと違うか」と返された。

 そういえば確かに韓国にはコーヒーショップが多い。探すのに困るのではなく、どの店を選ぶか迷うほどだ。世界のスターバックス(通称スタバ)以外にも、コーヒーチェーンはやけに多い。スタバに続いてコーヒービーンが進出してきた時は、星(スター)と豆(ビーン)の戦いと揶揄されていた。

 その後、国内外入り乱れて多くのチェーン店ができたのが2005年ぐらいからだろうか。純国産もカフェベネやエンジェル・イン・アス、TOM N TOMSなど目白押しで、チェーン店の数では国産の方がスタバを凌いでいるらしい。一部の韓国チェーン店は日本進出も計画中と聞く。

 なぜ韓国ではそんなに多いのか?私見だが、韓国のコーヒーショップはドリンク以外のケーキやワッフルなどメニューが実に豊富で、若者、特に女性の憩いの場になっているようだ。それに各店が有名タレントを惜しげもなく広告塔に使うだけでなく、ドラマのロケにもよく登場するのでお洒落な店が多く、コーヒーショップでの出会いが一種のファッションになっているのではないかと思っている。

 オジサン方の商談や息抜き中心の日本とはシチュエーションがまるで違うようだ。

 先日、韓国の友人から新しいコーヒーの紹介を受けた。その名も”Coffee Cats”。彼の説明が面白い。インドネシアの森にはジャコウネコという夜行性の小動物がいるが、このネコの好物が「コーヒーの赤い実」。ジャコウネコは赤い実を丸ごと口の中に入れ、器用に皮を吐き出して中の甘い粒を舐めて呑み込む。でもこの粒は固くて消化されずに排出されるが、それをよく洗い、精製したものが「コピ・ルアク」というコーヒー豆になるのだと。

 動物の排泄物からとなるとちょっと抵抗があるが、独特の香りは幻のコーヒーと呼ばれている高級品らしい。ジャック・ニコルソンがある映画で愛飲して有名になり、ヘルシンキを舞台にした日本映画『かもめ食堂』でも「コピ・ルアク」が登場している。

 この「コピ・ルアク」と同等の香りのコーヒーチェーンを韓国で始めた、というのが友人の話です。本当のジャコウネコからのコーヒー豆なのかどうかは別として、話題性は十分。幻の味が本当の幻にならないよう友人を激励しておきました。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表。