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2013/10/04

<随筆>◇韓国でもゴーヤがあった!◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル駐在特別記者兼論説委員

 趣味の渓流釣りで江原道にはよく出かけるが、単独行の場合は鉄道を利用する。始発駅はソウルの清涼里で、先日、駅に帰着した際、駅前広場でテントを張って物産展をやっていた。即売コーナーを覗くとゴーヤがあるではないか。

 昔、沖縄に入れ込んでいた時期があって、ゴーヤをはじめ沖縄料理は大好きだ。筆者の故郷である鹿児島では「ニガゴイ(苦瓜)」といっているが、沖縄料理では豆腐や卵と一緒に炒めた「ゴーヤチャンプルー」が代表的な料理で、あの苦味は何ともいいがたい味わいだ。

 早速、何本か買って帰り、知人にもおすそ分けし大いに喜ばれた。その後、さらに産地に宅配を頼んでソウルに送ってもらったりもした。産地は全羅南道康津で、沖縄から種子を仕入れハウス栽培しているとか(連絡先は電話061・433・6770)。

 さてゴーヤの韓国名だが「ヨジュ」と言っている。この由来は、沖縄でいうゴーヤを日本本土では本来「ツル(蔓)レイシ」あるいはそのまま「レイシ」といい、漢字では中国名そのままに「荔枝」と書くので、そのハングル音の「ヨジ」がなまり「ヨジュ」になったものと思われる。ところが面白いのは「レイシ」にはこのゴーヤのほかに、例の中国名物の果実「ライチー」のことを「レイシ」といい、漢字も同じく「荔枝」である。ゴーヤとライチーが同じ名前というのは不思議だが、両方とも果実の表面にブツブツした突起があるため、そうなったのかもしれないと想像したり。

 ところで果物のライチーは小さな丸い木の実で、中の白い果肉を食べる。甘くておいしいところはゴーヤとまったく違う。中華料理で最後にデザートでよく出るが、韓国では「ライチー」というと通じない。「リチー」だという。これはどうしたことか。

 調べてみると「ライチー」は広東語で「リチー」は北京語だそうな。しかしあれは南方の果物だから「ライチー」の方が本場の発音ということになるではないか。最近、中華料理屋でライチーが出るとそんな“我流”を言ってウエートレスをからかっている。

 清涼里駅のゴーヤに戻れば、「どうして食べればいいのか?」と聞いたところ、生ジュースや干したものをお茶にするなど、もっぱら健康食品風の説明だった。パック入りのエキスなどというのもあった。

 「日本じゃ炒めモノがもっぱらだけど」というと「そうそう、それもいいですよねえ」という。日本ではサラダにもするらしいが、沖縄伝統派にはやはり「ゴーヤチャンプルー」が一番だ。

 イヌも歩けば棒にあたる。清涼里駅は江原道や忠清北道、慶尚北道方面の列車の発着駅であって、湖南線など南方の全羅道方面は関係ない。なのに全羅南道康津産の「ヨジュ」に出くわすとは。これだから旅は面白い。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。