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2014/07/18

<随筆>◇スシとキムチを食べながら相手を嫌う韓日両国◇ 呉 文子さん

 梅雨の最中の6月21~22日の2日間、「みんなのまつりinたづくり」が私の住む調布市の文化会館「たづくり」で開催された。市民との交流をはかるという目的のもとに「たづくり」利用団体が一年間の活動成果を披露するおまつりである。このおまつりに調布九条の会「憲法ひろば」は、慶応大学の李洪千氏に、「韓国の人たちが見る今の日本」というタイトルで講演を依頼した。

 あいにくの空模様のせいか満席にはいたらなかったが、蝶ネクタイ姿でにこやかに登壇した氏を参加者は温かい拍手で迎えた。こういう演題で蝶ネクタイ姿の講師には初めてお目にかかった。一瞬オペラ歌手かと思ったほど。会場の空気も心なしか重々しいものからリラックスムードに。李洪千氏は重いテーマを軽妙な語り口でさわやかに聴衆になげかけてくる。

 「スシとキムチを食べながら相手を嫌う日韓両国」には、思わず吹き出してしまったが、実に言い得て妙だ。両国関係の現状を見事に表現しているではないか。「韓国人を日本から叩き出せ」と罵詈雑言を浴びせておきながら、デモの帰りには、その嫌いな国のキムチや焼き肉を食べたくなり、「焼肉、いかない?」な~あんて言ったりして、などと皮肉を混じえながらの巧みなお話にぐんぐん引き込まれていった。

 聴くに耐えないヘイトスピーチを野放しにしている日本社会、しかし「レイシズムは日本の恥」とこれに対抗してプラカードを掲げ路上を行進している日本人。氏は「嫌いなのは国で人ではない」、国政レベルではなく、「あなたとわたし」がウインウインの関係を築くことが大切。そのためには、「あなたとわたし」が互いの悩みや苦しみを知り、少しずつ距離を縮め理解しあうことではないのかと。全くその通り。 

 日本滞在歴15年、46歳ならばこそ、自国も日韓関係も客観視できる、まさにグローバル時代を生きている世代。肩をいからせて「正論」をぶつのではなく、未来に向けての現実的で生活感のある話に、いつしか身も心もほぐされていくようだった。しかしながら「善意の植民地があるのか」の項目では、勝手に他国を侵略して被害や苦痛を与えておきながら、近代化してやったのだなどという日本側の妄言には、ネガティブな国民感情をあらわにした。ナショナリズムのコントロールがきく世代ではあるが、歴史の事実には目を背けることなく、歴史認識にぶれはない。

 膠着したままの日韓関係がいつまで続くのかと、もどかしくもなる。しかし、外交は国家間の駆け引き、あまり悲観的にはなるまい。氏のように柔軟でかつ現実的に捉えられる世代が、きっと次のステップへの糸口を掴んでくれるだろう。いま私にできること、まずは、この町で「スシやキムチをおいしいと思える人と人の輪」を無数に繋げていくことではなかろうか。


  オ・ムンジャ 在日2世。同人誌「鳳仙花」創刊(1991年~2005年まで代表)。現在在日女性文学誌「地に舟をこげ」編集委員。著書に「パンソリに思い秘めるとき」(学生社)など。