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2021/03/05

<随筆>◇「リアル」な家族描いた『夏時間』◇金 珉廷さん

 韓国映画『夏時間』(東京・ユーロスペースほか全国順次公開中)は、不完全ながら、ありのまま生きる家族の姿を描いた静かな作品である。父親は露店で靴を売っているが稼ぎはあまりよくない。高校生の姉と小学生の弟は、父親と一緒に、祖父の自宅に居候することになる。そこに離婚した父親の妹がやってきて、新しい5人家族の日常が始まる。

姉と弟はよくケンカするが、仲が悪いわけではなく、あまり言葉を発しない祖父も体力が落ちているだけで、特に厳しいわけでもない。父も仕事がうまくいかないだけで、お酒を飲んで暴れることもなければ、暴力をふるうこともなく、女性問題を起こすような人でもない。だからこそ、非常にリアルである。

 父親と子どもたちが祖父宅を訪れた夕飯のテーブル。そこにはミルクガラスのコップが置かれ、韓国の夏の定番料理「豆ククス」を目の前に、白いタンクトップ姿の祖父が無表情な顔を見せながら、座っている。すべてが韓国人にはなつかしい場面である。あのミルクガラスのコップはどの家にもあった。嫁入り道具の螺鈿のたんす、そして蚊帳もすべてがなつかしく、スマホが鳴る前まで、時代背景が80年代のどこかだと思わされる。


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