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2000/07/14

<総合>IMFの再来はない 金ガッチュン・全経連会長に聞く

 財界の重鎮、金ガッチュン氏(京紡会長)が全国経済人連合会の第26代会長に就任して5カ月になるが、重要課題が目白押しだ。「財界は自己反省が必要だ」と内部批判も起こった財閥改革の舵取り、ブームに湧く対北朝鮮進出対策、韓日新時代に向けての経済協力の進め方などが注目されている。全経連は韓国のほぼすべての財閥企業366社が加盟する韓国有数の経済団体であり、その影響力も大きい。どんな役割を果たそうとしているのか。金会長にインタビューした。


 ――大宇解体による金宇中会長の任期途中の降板に伴い、昨年11月に会長代行に就任。今年2月に正式に会長職に就いた。会長就任後の活動の力点は。

 今年で75歳。財界最年長であり、正直なところ引き受けたくなかった。だが、状況は激動の時代であり、いまは年寄りの方が都合がいいと、優等生ではないが落第生でないので選ばれたようだ。ここの会長は権力はなく、調整しかできないが、政府が進めている財閥改革に協力しなければならないと思っている。

 ――韓国経済の現状をどう判断するか。

 勘でいうのだが、IMFを克服したというものの、いろいろな問題を先送りした。もちろん、政府も介入せざるを得なかったように、あんな大きな衝撃を一度に解決できるわけがない。交通事故から立ち直るのに時間かかると同様、経済事故からの回復にも時間がかかる。緊急オペはそれなりに成功した。IMF直後に外貨は底をついたが、いまは900億ドルを超している。数字がものをいう。これは大したものだ。理由はわからないが、政府も財界も国民全体が一致協力して問題を解決しようという気持ちがそうさせたと思う。

 スピリチュアルというか、日本でいえば大和魂でできたとしか説明できない。例えば、主婦たちが結婚指輪を供出した。あの同じIMF直後と比べれば、いまははるかに状況はいい。ただもうIMFは終わったといって贅沢が続けば、IMFはまた来るだろう。問題は、小さい傷がたくさん残っていて、全部直すのには時間がかかることだ。

 ――全経連の役割は。

 経済研究所は天狗になってはいけない。これから将来の新しいビジネスの準備作業もあり、研究所同士の協力も必要だ。

 ――財閥改革はどう進めるべきか。

 このごろのベンチャービジネスは何でも手をつけたがる。これだと決めて集中することがない。まるでミニ財閥のようだ。タコ足式経営が財閥の問題点として指摘されてきた。あれもこれもと全部を抱えていても行き届いてやれればそれでいいが、実際は難しい。どうしても明暗がある。

 もう大部昔のことだが、本田技研工業の故本田宗一郎社長がフォードのアイアコッカ社長と3時間も会談したことがある。何か重要なことが話されたのではないかと記者が詰めかけていたが、本田社長は「特別な話はなかった。はただ一つはっきりしたのはアイアコッカさんはお金儲けに趣味があるようだ。僕は自動車の名品づくりに趣味がある。趣味が違う2人が座って3時間話した結果だから、何もなくてもおかしくない」と述べた。

 もちろん、日本だから本田は成り立った。韓国では無理だろう。会社のためにならの精神を実行できるのは日本だけだ。日本の大会社は貧乏だ。同じ専門経営者でもアイアコッカの収入はものすごい。だから成績をあげると収入に直結する。日本は違う。韓国はいまのところオーナーでないと難しいところがある。自分の会社だから一生懸命やるが、そうでないとやらない風潮がある。今後どうやるかを考えなければならないだろう。

 ――南北頂上会談が成功した。北朝鮮進出がブームになりそうだが、経済協力をどう進めるべきか。

 国家機関でも全経連でもいいが、北朝鮮の状態がどうであるかを正確に調べる必要があると思う。社会間接資本拡充のための投資が強調されているが、インフラだけでなく産業立地、全国の交通網はどうすべきなのか、全体の図面を書いて置くべきではないか。例えば、北朝鮮の地形をみると、風は西から東に吹くのだから、環境問題に照らしても化学工業など重化学工業を西海岸に立地するのは間違いだ。むしろ東海岸に立地するなど、いまのうちに1日も早く修正すべきだと思う。

 韓国もあまりに急速に発展したのでいろいろと問題が生じたが、それも教訓にすることができる。少なくともヨーロッパは、そういうことに大変気を遣っている。フランスのパリはいまでもきれいな都市だ。

 ――韓日関係では新しい経済協力体制を構築すべきではないか。

 6月に東京で開かれた韓日経済人会議に参加して、感じることが多かった。京セラの稲盛社長の「一流大学からは採用しない」という実践的な話には感銘した。今回久しぶりの参加だったが、従来の儀式的な会議から本音を話し合うようになった。大変な進歩だ。自由貿易協定の話も出たが、これを進めるのも望ましい。

この自由貿易に中国も加えるべきだ。何しろ13億の人口をかかえても飢えた人がいない。農業政策的にも大成功だ。

 この会議で私は、アジア内で新しいビジネスモデルを創造しようと提案した。これは、韓日が中国と北朝鮮を含めたアジア域内市場を念頭に産業構造を設計し調整しようというものだ。これと関連、韓日間では部品、素材分野の提携・共同技術開発体制を具体化すべきだろう。これら4カ国を一つの経済圏にする効率的な分業構造とネットワークを形成できれば素晴らしい。

 キム・ガッチュン 1925年ソウル生まれ。米ベリア大学化学科卒業。米ユタ大学博士学位取得。高麗大学教授。75年から京紡会長。第一銀行会長などを経て今年2月全経連会長に就任。